日吉

□貸出人名簿
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氷帝テニス部の関東大会の後、日吉という人物が気になるようになった


だが、どのクラスなのかとかどんな人物なのかとかは全く知らない私は、これといった行動を起こすことが無かった


別に友人に尋ねれば一発で分かるのだろうが、そんな事をすればテニス部に興味を持ったのかと騒がれる

悪い人じゃないのは分かっているが、どうもテンションやノリは合わないのだ











パタン、と本を閉じ、窓の外を見る

青々と茂る木々を見つめながら、ふぅと息を吐いた







別に人付き合いが苦手なワケでは無い

人並み程度に友人はいるし、休日に遊びに行ったりもする


ただ、必要以上に干渉されたり、パーソナルスペースに踏み込まれたりするのが嫌いなのだ





だから私は基本的に1人を好むし、必要最低限の事しか話さない


それを嫌がる人もいるが、別にその人と無理に親しくするつもりも無いから気にしてはいない





今の友人たちはその事を知ってるし、それを受け入れてくれる寛大な人なのだ






それに甘え、私は週に何度も図書室に足を運び、読書に没頭する



一年生の頃から通い詰めていたおかげか、どこにどんな本があるかなどは全て把握済みだ










『……?

学園七不思議……』




さっきまで読んでいた本が終わり、次の本を探しに図書室に来る


入ってすぐの所に最近入荷した本が並べてあり、その中の一冊に目が止まった



学園七不思議、小学生の頃などに流行った類の本だ










『すいません、これを借りたいんですが』





何となく、懐かしくなってその本を借りてみた


司書さんの話によると、この本は今日入荷したばかりらしい










***





二年生になってからは図書室に頻繁に来るようになっていたが、最近は大会の影響で来ていなかった


関東大会での雪辱を晴らすため、また、あの人を越えるため、気持ちを新たにテニスに取り組んでいる



そんな中、1週間ほど前に図書室に来た時に、図書館司書の方から嬉しい情報を頂いた




学園七不思議という本が入荷されるというのだ





「日吉くん、こういったジャンル好きなんでしょ?
だから入荷しておいたわ」


「あ、ありがとうございます」


「来週の月曜日に入荷するから、またその時に来るといいわ」




そう言われ、月曜日に行こうと思っていた

だが生憎、その日は部活のミーティングなどが立て込んで、図書室には行けなかった



だから翌日に赴けば








「あの本、昨日借りられちゃったのよ」


「え」




そう図書館司書の方に言われ、顔には出さずとも肩を落とす


だが沈んでいるのが分かったのか、司書の方は借りていった人間の話をしてくれた









「あのね日吉くん、借りていったのは瑞乃ちゃんだから、2〜3日もすれば返却されるわよ」


「瑞乃?女ですか?」


「えぇ、女の子

しょっちゅう図書室に来てる”本の虫”って感じの女の子なの


あの本の厚さなら、2〜3日で読んじゃうと思うわ

だから、またその時に来てちょうだい?」


「………分かりました、わざわざありがとうございます」



いいえ、と微笑む司書さんに挨拶をし、軽く図書室を覗く












あの人はいなかった










***



三日後、図書委員の当番のついでに借りていた本を返す


ピッピッとパソコンで返却作業をしていると、仲良くなった司書さんに声をかけられた




「瑞乃ちゃん、その本どうだった?
瑞乃ちゃんがそういう本を読むなんて、珍しいわよね?」


『えぇ、そうですね、少し懐かしくて借りてみました


面白かったですよ、小学生の頃を思い出しました

それにホラー要素もちゃんと書かれていて、結構怖かったです』


「そう?なら良かったわ

瑞乃ちゃんと同じ学年の男の子でね、そういうジャンルの本が好きな子がいるのよ
だから入荷してみたの」


『そうなんですか、ならきっと喜んでくれますよ、その人』


「えぇ、そうね

瑞乃ちゃんも読んでみたら?学園七不思議とか、ホラー系の小説」


『はい、ちょっと興味が湧いたので読んでみるつもりです』



そう?と嬉しそうに笑う司書さん

穏やかなカウンター内での会話を楽しみつつ、自分が今返却した本を本棚に戻しに向かった



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