日吉

□好きな本
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鳳くんから、日吉くんは学園七不思議やホラー系の小説が好きだという事を聞き、最近はそういった本を読むようになった



そういったジャンルで、図書室にある本の裏表紙には、ほぼ全てに彼の名前が書かれていた





図書室にある本はほとんど読破しているらしい









***




『図書委員のオススメの本?』


「と言っても、数人にしか聞いてないんだけどね

瑞乃ちゃんは何かある?」




ある日の委員会の後で、図書委員長で文芸部の部長でもある先輩にそんな事を尋ねられた


時折、委員便りという紙を生徒たちに配っているのだが、それに図書委員オススメの本を載せたいという事らしい







それに指名された私は、あるホラーミステリー小説の名前を挙げた


ホラー要素はもちろん、スリルのあるミステリー要素も魅力的で、そこまで量が多い訳ではないがなかなか読み応えのある一冊だ





その本は図書室にもあるが、だいぶ前に発行された本であるため、あまり読んでいる人はいない








委員長が分かったと返事をし、委員便りの作成を始める



それを手伝いながら、頭の片隅である事を考えていた











日吉くんなら気に入ってくれるのではないか、と










***





「コレの返却、お願いします」



数日後、日吉くんが本の返却に来た


司書さんは都合で不在だったため、私が代わりに返却作業を行う





パソコンで入力していると、彼の視線がカウンター脇の委員便りに向いていることが分かった






その委員便りには、私が委員長に伝えたホラーミステリー小説の事が紹介してある


紹介人である私の名前は匿名にしてもらったから、誰がそれを紹介したのかは数人しか知らない









『………あの、』




カチ、とパソコンの入力を終えてから、日吉くんに話しかけた



少し声が上ずってしまった











「何ですか?」




はっきりとした声で返事がきた


それにパニックになりそうな頭を落ち着かせ、ゆっくり言葉を選ぶ





おかしいな、私は別に人見知りでは無いはずなのに



彼に話しかけるだけでこんなにも緊張するなんて









『えと…、それに書いてある本、私のオススメなんですけど…

……気に入ってくれるんじゃないかな…』





緊張で顔を上げられない



知らない人間にこんな事を言われたら気持ち悪いだろうか、嫌がられるだろうか



ぐるぐると不安が頭を過っていく







彼が答えるまでの沈黙がやけに長く感じて、正直、生きた心地がしなかった









「………それ、どこに置いてありますか」


『えっ、えっと、B-12の棚の、上から二段目です』


「分かりました」





私の返却作業が終わったのを確認すると、日吉くんはそう言って図書室の奥へと進んでいった






しばらくしてハッと我に帰った私は、慌ててカウンターから顔を出す



日吉くんは私が教えた本棚に向かっていた













『………話しちゃった』






それは一種の喜びのようなもの


興味を持っていた人物と話せたことによる喜び




それと同時に抱く、友人に知られたら面倒な事が起こりかねないという憂鬱










あぁ、最近の自分はどうしたのだろうか


見ず知らずの男の子が気になったり、話せて喜んだり、憂鬱になったり



自分でも訳が分からない





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