日吉

□それぞれの夏
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真夏の暑い日だった








テニス部の全国大会が始まっていくばくかの日々が過ぎたある日


友人と約束して観に行ったのは、対青学との試合





多くのギャラリーが集まるテニスコートの中で、日吉くんは先輩とダブルスを組み、一所懸命に自分のテニスで勝負していた






テニスのルールはよく分からなかったが、彼が二年生ながらに強豪校のレギュラーになれた理由がよく分かった


強かったのだ




それはもちろん技術面でもそうだが、彼は誰よりも強靭な精神を持っている


誰よりも貪欲に上を目指している










全て、私には無い物だ



日吉くんは私に無いものをたくさん持っていて、そして輝いて見えた












「勝者、青春学園!!」






審判のコールがテニスコートに響く



氷帝は、全国大会ベスト8に終わった










「……負けちゃったか…

でもベスト8なんて、それでも十分凄いよね!

やっぱ氷帝は強い!うん!





……って、瑞乃?」




友人が私に声をかけるが、私はずっとテニスコートを見ていた


周りの観客たちは続々とその場を去っていく中、テニス部のレギュラー達はまだコートの中にいた












『(……また、あの目)』





敗北の悔しさから涙を流す者もいた

黙ってうつむく者もいた






でも日吉くんは、真っ直ぐ前を向いていた




その目には涙が溜まっているように見えたけど、それは頬を流れる事はなく、彼の瞳に留まる










何度も思ってきた、日吉くんは綺麗な人だと





本を読む動作とか、背筋を真っ直ぐ伸ばして堂々と歩く姿とか、静かに笑うところとか




たくさん綺麗だと思う部分はある










でも私が一番綺麗だと思うのは、涙を浮かべながらも強い眼差しで前を見据えている時










敗北を糧に、もう日吉くんは上を向いている


さらなる高みを目指している







なんて強い人なんだろう


なんて凄い人なんだろう









純粋に尊敬できる反面、羨ましくもあった









『(私には何がある?)』





日吉くんのように、涙を流せるほど夢中になっているものはない

日吉くんのように、何かを目指している訳でもない






私はただ、本を読んでいるだけ


得ても無意味な知識や、有りもしない世界に夢中になってるだけ

私は何も誇れない






日吉くんのような凄い人は、私とは住む世界が違うんだ












それを改めて思い知らされたような気がした









”お前は日吉くんとは違うんだ”





どこからか、そんな声が聞こえたような気がした


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