日吉

□期待するな
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季節は秋へと変わっていた




思えば早いものだ、関東大会や全国大会が終わり、夏休みも終わり

制服も夏服から少しずつ変わり始めている












「黒田」


『あ、日吉くん、こんにちは』






本当に、思えばあっという間の事だった


日吉くんを初めて見たあの日から、まだそんなに時間は経っていない


日吉くんを知って、彼が図書室に現れて、話しかけてくれて、よく話すようになった




まさかこんなに親しくなるとは思っていなかった







「この間借りた本、返しに来た」


『そのためにわざわざ図書室に来たの?
教室に持ってくる方が楽じゃない?』


「……お前の教室に行くと鳳がうるさいから嫌だ」







そして、彼を好きになるなんて思ってもみなかった







『はは、二人は仲が良いね』

「どこがだ」

『でも小学生の頃からの付き合いなんでしょ?鳳くんに聞いたよ』

「………そういや、お前は受験組だったな」

『うん、小学校は違うとこ』

「………お前が幼稚舎組だったら良かったのにな」

『え?』





とん、と本棚に本を戻す作業をしながら日吉くんを見る


彼は私の視線に気付くと、少し気まずそうに顔をしかめた









「もっと早くに出会ってたら良かったのに、って思っただけだ」


『!』




どき、と鼓動が激しくなる


それを悟られまいと、また本棚に目を向けた








『私だって、もっと早くに出会ってたら良かったって思うよ』






けれど、遅かれ早かれ、あなたに惹かれて苦しむのは間違いないでしょう



私は愚かにも、日吉くんに恋してしまったのだから








人を好きになるのは、大変な事なんだ











***





夏の全国大会を終え、その他の合宿なども終え、やっと落ち着いた日常が戻ってきたと思ったら、季節はもう秋に変わろうとしていた


黒田とは相変わらず図書室で会っている


別に約束してる訳ではないし、用がある訳でもない




ただ、彼女は必ず図書室にいるから、俺が勝手に会いに来ているだけだ






『この本、どうだった?』


「良かった
あまり読んだことがないジャンルだったが、結構面白いな」


『喜んでもらえたみたいだね』




彼女に借りていた本を手渡して本の感想を言えば、黒田はふわりと微笑んだ


興味のなかったジャンルでも、彼女が選ぶ本にハズレはない



最初は図書室の本の話がほとんどだったが、今ではお互いが持ってる私物の本を貸し借りするようになった




だがその際、お互いのクラスを知らないことに気付き、本当に今更ながら、互いの基本的な情報を交換したのだ







驚いた、いや、皮肉にも、彼女は鳳と同じクラスだった









『私だって、もっと早くに出会ってたら良かったって思うよ』




鳳から話が派生し、昔の話になる






俺が思わず言ってしまった言葉に対する彼女の返事に、心臓がどくりと早まった








自分でも思っていなかった

彼女を好きになるなんて








ならこの気持ちはどうすればいい?



告げるべきか、告げないまま今の関係を続けるか






やっとここまで来たのに、俺が気持ちを告げることで今の関係が粉々になってしまうのではないか、という不安が大きくて
その一歩が踏み出せないのだ


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