日吉
□曖昧な関係
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〈日吉目線〉
「日吉部長!お疲れ様でした!」
「お疲れっした!」
「あぁ、鍵は俺が閉めておくから気を付けて帰れよ」
「「はい!」」
バタン、と部室の扉が閉められる
片付けを簡単に済ませ、部室の中を点検し、外に出て鍵を閉めた
「あ、日吉お疲れ」
「ウス」
「………まだ帰ってなかったのか」
「樺地が校舎に忘れ物したみたいでさ、それ取りに行くのに付き合おうかと思って」
「……ウス」
部室の外にいた二人の話を聞き、樺地も忘れ物をするんだな、なんて考える
何となく校舎を見上げると、ある場所に明かりが点いているのが見えた
あの場所は図書室だ
「日吉?」
「………俺も図書室に忘れ物をした」
「…………ふーん、そうなんだ?
じゃあ一緒に行こうか」
「………あぁ」
ニヤニヤと笑う鳳と、その横で不思議そうに首を傾げる樺地
とりあえず鳳を殴り、三人で校舎に向かう
途中で俺だけ離脱して図書室に向かうと、鳳が笑顔で「黒田さんによろしくね」と言ってきた
***
図書室に行くと、いつもの司書さんがカウンターで片付けをしていた
「あら?日吉くん?」
「あ……、どうも」
「ふふ、そうだ、私この後用事があって、早く帰らないといけないの
図書室の戸締りとあの子の事、お願い出来るかしら?」
「え、まだ黒田は残ってるんですか?」
「あら?
私は「あの子」って言っただけで、名前は出してないわよ?」
「っ!!」
「ふふ、若いって良いわねぇ
あの子、コンクールの小説に行き詰まってるみたいで、疲れちゃったみたいなの
いろいろと、よろしくね」
クスクス笑いながらそう言うと、俺に鍵を渡して本当に帰って行った
気を利かせたつもりなのだろうか
あの人は何もかもを分かっているみたいで、頭が上がらない
***
「………!
おい、黒田……あ」
鍵を手の平にしまい、彼女がいつもいる席に向かう
すでに図書室の外には闇が広がっていた
「…寝てるのか」
彼女はいつもの机に座っていたが、机に突っ伏して微動だにしなかった
近付くと、かすかに寝息が聞こえる
肌寒くなってきたこの時期の夜に、薄いカーディガンではまだ寒いだろう
部活にと持ってきたが、結局使わなかったジャージを彼女の肩にかけ、自分は図書室の戸締りに向かった
彼女の手元には、びっしりと文字で埋まった原稿用紙が置いてあった
***
「……俺に送られるのがそんなに嫌か」
『っな、そんな訳ない!』
戸締りを終えて戻ってくると、ちょうど黒田が目覚めたので、そのまま一緒に学校を出た
時間が時間なだけに送る、と申し出れば、かなり遠慮された
俺と一緒に帰るのが嫌なのだろうかと思って正直に言えば、彼女は即座に否定した
お世辞かとも思ったが、彼女は自分の発言に顔を赤くして焦っていた
それで、彼女が本心から言ってるのが分かって安心した
「………………帰るぞ」
じわじわと暑くなる頬を気取られぬようにぶっきらぼうに言い、さっさと歩き始める
後ろから黒田が慌てて追いかけてきて、俺の数歩後ろに落ち着いた
黒田との間に会話は無く、お互いに黙って歩いていた
だがそれは決して気まずい訳ではなく、むしろ心地いい沈黙だった
彼女とのこの曖昧な関係が、今の自分にはとても落ち着くのだ
それに安心している自分がいた
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