日吉
□一つの方法
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コンクールの締め切りが目前に控えているある日の放課後
そろそろ最後のシーンを書かないと、提出に間に合わない
『……駄目だ』
今まで書いていた文字を消しゴムで思い切り消す
何度も書いては消してを繰り返していたせいで、原稿用紙のその部分はヨレていた
『……はぁ』
最後のシーン、主人公の女の子と男の子の恋の決着がどうしても決まらない
ある日、涙を流す綺麗な男の子と偶然出会い、そして恋をした女の子の話
つまりは私のことだ
告白するかされるか、成功するか失敗するか、それすらも決まっていない
もう時間が無いのに、どうしよう
頭を抱えて図書室のいつもの机に伏せると、複数の足音が聞こえてきた
図書室に似つかわしくない、大きな音を立てる足音
普段から図書室に来てる人では無い
「ちょっといいかしら」
「話があるんだけど」
『………?』
その複数の足音は私が座っている机の近くで止まる
不思議に思って顔を上げると、見たことがない女の子達が私を見下ろしていた
何となく嫌な予感がしたが、あいにく今は放課後
親しい友人たちは、みな部活に行ってしまった
『………分かりました』
書いていた原稿をカバンにしまい、どうせ戻ってくるだろうとそのままにしておいた
***
今日の部活は新人戦についてのミーティングのみで終わり、校内にあるミーティングルームで行ったため、そのまま借りていた本を返そうと図書室に来た
放課後という事もあり、図書室は昼間よりも人気が少なかった
「!
あ、日吉くん、瑞乃ちゃん見てない?」
「? 見てないです」
「そう……」
「……黒田がどうかしたんですか?」
いつも穏やかな顔をしている司書さんが、珍しく焦っていた
話の内容も黒田の事だし、アイツに何かあったのだろうか
「瑞乃ちゃんがね、何人かの女の子と一緒に出て行ったの
最初は友達かと思ったんだけど、学年も違うし、瑞乃ちゃんの顔も強張っていたし…
……何かあったのかなって…」
「………!」
話を聞いて、とりあえず彼女がいつも座っている机に向かう
そこには彼女のカバン一式が残っていた
「チッ……!」
図書室を出て、校内を走る
何となく胸騒ぎがした
***
女の子達は私を旧校舎に連れてきた
ここは他の校舎に比べて少し古く、主に倉庫部屋として使われているため、人気がないのだ
「………さて、ここまで来ればいいかしら」
「そうね」
『………。』
廊下を曲がってすぐの所で立ち止まると、彼女達は私を壁に追いやった
ジロリと複数人に睨まれ、顔が強張る
「あなた、日吉くんの何なの?」
『え……?』
「この前、あなたが日吉くんに腕を引かれてるの見たの
同じクラスでも無いし、幼稚舎組でも無いあなたが、何で日吉くんと一緒にいるの?」
「それに、本の貸し借りもしてるわよね」
『……それは、図書室でたまたま会って、仲良くなったから』
しっかりとした口調で答えると、彼女たちは眉を釣り上げた
意味が分からない、そんな訳ない、信じられない
そんな言葉を口々に言い出した
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