日吉

□すれ違う
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もう、図書室には行かない




日吉くんがそうハッキリと告げてから数日





コンクールに出す小説の締め切りは、三日後に迫っていた










日吉くんが図書室に来なくなってから、わたしの手は全く進まなくなった


頭を占めるのは日吉くんの事ばかり


何度か廊下ですれ違っても、目も合わせてくれなかった










「それで、瑞乃はどうしたいのよ」


『どうって……、また前みたいに…』




日吉くんとの不思議な関係を知っている友人に相談すれば、彼女は盛大にため息を吐いた


放課後の教室で二人で話しつつ、私は一応原稿用紙を広げる



だがそれは、ラストシーンの手前で止まっている








「前みたいに微妙な関係のままでいいの?

このまま終わるより、はっきり気持ちを伝えた方がいいよ」


『なっ、そんな事出来るわけ』


「出来るわよ、瑞乃なら



アンタにはそれがあるじゃない」


『え?』




友人が指を差したのは、私が書いている小説だった


首を傾げる私に、友人はニッコリと笑う









「何も日吉くんに直接告白しろ、って言ってる訳じゃないわよ


そ・れ!


アンタは言葉を口にするより、言葉を書く方が向いてるでしょ

その小説のモデルはアンタ自身

瑞乃がしたいようにヒロインを動かせば良いじゃない」


『………。』




机に広げた原稿用紙が、風でひらひらと机の上を動く





自分がしたいように、ヒロインを動かす












「……瑞乃はさ、どうしたいの?」




友人が楽しそうに微笑む










私はどうしたいのか、そんなの決まってる









『…………このままは、嫌』


「……うん、その意気だよ

小説、楽しみにしてる




いい?しない後悔よりした後悔!

当たって砕けろ!」


『………砕けたら意味無いけど』


「細かいことは気にしない!

じゃ、私帰るね、用事あるから



アンタはどうする?」


『コレ、仕上げる』




原稿を手に取り、ニッと笑う


友人は私の顔を見て、楽しそうに笑った










「応援してるから」













***




陽が落ちてきた頃、コートを片付けて部員たちが続々と帰っていく


細かな雑用が残っていたため、一人部室に残っていた







「日吉」


「何だ、まだ残ってたのか鳳」


「うん、ちょっとさ、日吉と話したくて」


「は?」




パタン、と部誌を閉じて鳳を見る


ニコニコといつものように笑う奴を見て、思い切り顔をしかめた








「………何の用だ」


「俺が何を話すのか、分かってるんじゃない?」


「………………くだらない話なら俺は帰るぞ」


「黒田さんの話は日吉にとってくだらない話なんだ」




鳳の顔から笑顔が消える

何を考えているのか分かりにくいこの表情が、たまに怖いと感じる









「黒田さんの友達に聞いたんだけど、この間黒田さん、3年の先輩に絡まれたんだってね

内容は、日吉に近付くな、ってトコかな」


「……それがどうした」


「最近、日吉は黒田さんを避けてるよね
図書室にも行ってないみたいだし



ねえ、何で?

彼女が先輩に絡まれたのは確かに日吉が原因かもしれないけど、それで日吉が引き下がるのはおかしいよ」


「うるさいな、お前には関係無いだろ」


「関係ある、って言ったら?」




普段は温和な性格で、言動もそれに近い

そんな鳳がこんなに強く物事を言ってくるのは珍しかった





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