日吉
□図書室の住人
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”二年生の黒田瑞乃さん
秋の全国小説コンクールにて入賞”
報道委員会の際にもらった校内新聞に、でかでかと書かれた見出し
他の生徒より先に校内新聞を配られ、報道委員はそれを校内に掲示する
その仕事の関係で、黒田の快挙を知った
黒田が毎日図書室で書いていた小説が、全国入賞した
その小説については何度か話したことがあったが、彼女はストーリーを教えてはくれなかった
恥ずかしいから、と
新聞を読んでも、彼女の本の内容については書かれていなかった
おめでとうと言ったら、アイツはどんな顔をするだろうか
そんな事を考えながら、自分のクラスにそれを掲示した
***
小説が入賞した事が学園に広がり、色々な人からおめでとうと祝福された
それにありがとうと返していたら、あっという間に時間が過ぎてしまった
「………ってな訳で、今年も例年通り、文芸部の作品を図書室に置くことになりました
各自の作品を本みたいに冊子にして、図書室の目立つところに置くの
タイトルは必ず載せてもらうけど、名前はどっちでも良いわよ
本名でもペンネーム的なものでもオーケーだから、好きなように書いて提出してね」
部長の説明を聞きながら、今年はどうしようかと考える
どちらかと言えば内向的な性格の持ち主が多い文芸部では、毎年コンクールに出した作品を校内に置く時にペンネームを使う事が許可されている
一年生の時は名前で出していたが、今年はどうしようか
部員には入賞したんだから名前で載せろ、と言われる
だがある名前を思い付いたため、私は部員の言うことを却下し、提出用のプリントに必要事項を書いた
タイトル「綺麗な人」
作者 図書室の住人
日吉くんなら、この名前を見たらきっと手にとってくれる
読んでくれる
そんな根拠のない自信があった
この作品はあなたへのメッセージ
これが私の気持ちだから
直接言えない臆病な私の、精一杯のアピール
『どうか、届きますように』
夏の日の、鬱蒼と生い茂る木々を思い浮かべる鮮やかな緑色の表紙で小説を閉じ、図書室のカウンターに他の部員と同じように並べた
***
「日吉くん!」
「?
……司書さん」
黒田の快挙を知ってから数日
結局何も言えないまま、ただただ時間は過ぎていた
鳳に言われた事も頭の片隅に残っている中、最近顔を合わせていなかった図書室の司書さんに呼び止められた
なにやら大きな段ボールを抱えており、大変そうだ
ああ、と呼び止められた理由を察し、すぐに段ボールを持った
「あっ、ありがとう〜
一人じゃ大変だったのよ〜」
「………見るからに大変そうですし…
これ、図書室でいいんですか?」
「ええ、そうよ
本当に助かったわ〜、瑞乃ちゃんに頼もうかと思ったんだけど、見つからなくって」
瑞乃、その単語にピクリと眉が動く
それを知ってか知らずか、司書さんは俺の顔を覗き込んでニコリと笑った
「日吉くん、最近図書室に来てないわね
部活忙しい?」
「…まぁ、そうですね」
「瑞乃ちゃんとも話してないそうね?言ってたわよ、あの子」
「え……、何て…」
「ふふ、それは日吉くんが瑞乃ちゃんと話さなきゃ意味無いでしょ?
彼女、ドライな性格で表情もあまり変わらないし、他人にあまり関心が無いみたいだけど、日吉くんは違うみたいね
だいぶ悩んでたわよ
下手したら小説の構想を練ってる時より悩んでたんじゃないかしら」
「………。」
司書さんが楽しそうにそんな事を話すのを、黙って聞いていた
黒田が悩んでいた原因は、間違いなくこの間の事だろう
早くどうにかしないと、とは思っているものの、どうすれば良いのかが思い浮かばない
はあ、と小さなため息をつくと、いつの間にか図書室に到着していた
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