日吉

□本よりも
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Uー17合宿に招集されたのは、秋も深まり寒さが増した時期の事だった


合宿に呼ばれた事で、完全引退をしていた3年のレギュラー陣が部活に参加するようになり、また部室が少し賑やかになった









忍「せや日吉、自分彼女が出来たらしいな」

向「えっ!マジかよ?!」

芥「うそっ!誰々?!」

宍「ジロー……お前寝たふりかよ……」




部活が終わったある日、部室で着替えながら時計を確認する

文芸部はとっくに活動を終えているだろうな


そんなことを考えながら片付けを進めていると、先に着替え終わった忍足さんがニヤニヤしながら話しかけてきた








向「おまっ、生意気な奴だな!

つうかお前みたいなひねくれ野郎に彼女なんか出来るのかよ!!」

忍「がっくん、ひがんでも悲しくなるだけやで」

芥「ねぇねぇ!どんな女の子?可愛い??」

日「何で言わなきゃいけないんですか」

忍「そらなぁ、可愛い後輩の恋路は気になるやん?

別に教えてくれてもええやろ、減るもんや無いし」

日「………嫌です」

忍「なら鳳に聞くで?

鳳は素直やからな、どんな子か教えてくれるやろ」



鳳ー、と忍足さんが鳳の名前を呼ぶ

だが鳳は部室にはいなかった


はぁ、とため息をつくが、忍足さんは外にまで探しに行こうとした










日「ちょ……、やめてくださいよ」

忍「なら、日吉がどんな子か教えてくれればええんやで?

ほれ、言うてみ

日吉から見たその子はどんな子なん?」

日「………………はぁ」



ニヤニヤと笑う忍足さんを睨むも、諦めてため息をつく

この人にはどんな事を言っても勝ち目がない、と言うことは重々承知だ















「文字通りの本の虫で、俺よりもとにかく本が好きな変人です」






バタン、と部室のロッカーを閉める


くるりと後ろを向いて先輩らを見れば、少し呆気にとられていた









芥「へ〜、本が好きな子なんだ〜」

向「……お前本当に好きなんだよな?そいつが

仮にも自分の彼女なのに、変人って……」

日「事実ですし」

忍「ほんで?自分より本ばっか構うんが寂しいんやな?」

日「は?」

忍「やってそうなんやろ?
”俺よりも本が好き”って言うたやん

それはつまり、本より俺に構えー、て事やろ」

日「………違います、言葉の綾です」

忍「素直やないなぁ……」






ふ、と忍足さんが楽しそうに頬を緩めて笑う

その顔が何となく自分の心まで見透かしているように思えて、顔をしかめた









鳳「お疲れ様です!

……あ、日吉、さっき黒田さんに会ったよ

校門で待ってるって」

日「………タイミングが悪い」

鳳「え?



………あー…、なんかごめん」



用事を終えて部室に戻ってきた鳳が俺に伝言を伝えるが、ある意味最悪のタイミングだった

顔をしかめながらそれを言えば、忍足さん達の顔を見て察したのか、ごめんと謝られた









忍「彼女は黒田さんて言うんやな〜、へ〜」

日「………お先に失礼します」




ぺこりと頭を下げ、足早に部室を出た


後を尾けよう、なんて言い出しかねない人が何人かいたが、幸いにもその人たちはまだ着替えを終えていない
















「黒田」








校門まで急いで来ると、彼女は校門に背を預けながら文庫本に目を落としていた







「……黒田」







本に夢中で俺の声に気付かない彼女にもう一度声をかけると、そこでやっと顔を上げた



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