日吉

□戸惑い
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「え、まだ手ぇ繋いでないの?嘘でしょ?」

『………。』

「アンタ達付き合い始めて2ヶ月は経ってるよね?嘘だよね?

まぁ確かに?テニス部のレギュラーは日本代表だかの合宿に呼ばれて長い間学校に来てなかったけどさぁ?」

『Uー17合宿ね』

「あぁそう、それそれ



………って別にテニス部の合宿なんてどうでもいいのよ毛程の興味も無いのよ!

私は!いくら会えなかった時間があったとは言え、アンタ達が付き合う前と今で全然変化が無いことに問題があるんじゃないかって言ってんのよ!!」

『別に相談してる訳じゃ無いんだし、そんな深く取らなくてもいいじゃない』

「お前えええ!人が話聞けばのらりくらりと交わすわ誤魔化すわ、アンタと口喧嘩すると勝てないから嫌なのよね!!」

『本をたくさん読めば語彙が増えるよ』

「そんな話してんじゃないっつうの!」



バン!と机を叩いてキーキー騒ぐ友人をぼんやり見つめつつ、手元の本に目をやった

彼女は美人なのに、口調や性格がかなり男っぽい

せっかくの美人が台無しだ



そんな事を頭の片隅で考えながらページをめくり、まぁまぁ、と彼女をなだめた







「まぁまぁじゃないっつーの!

だいたいアンタは本を読み過ぎ!
まさかデートも本屋とか図書館とかな訳?!」

『デートはした事無いよ、忙しいから』

「はぁぁぁぁぁぁ?!!」

『うるさい』

「いてっ」



机をバンバン叩いて興奮する友人の額を本で叩き、落ち着かせる


クラスメイトの注目を浴びているようだった、主に彼女が






『ったく…………


あのね、私は日吉くんと付き合ったからってガラリと態度を変えるつもりも無いし、向こうも今までと同じように接してきてるからそうしてるの

カップルだからってやたらベタベタする訳じゃ無いんだよ』

「いやでもアンタ達はドライ過ぎるよ……

それに瑞乃、いっつも本読んでるじゃん
日吉くんがクラスに来ても本に夢中で気付かない事多いし、日吉くん寂しいんじゃない?」

『いや、日吉くんに限って寂しいとかは無いと思うけど』

「私もそう思うけどさぁ……
でも自分の恋人が自分よりも本ばっかに構ってるのって、普通は寂しいんじゃない?」




ずー、とジュースをストローで吸い上げながら友人はそう言う

確かに私は常に本を持ってて、いつでもどこでも本を読んでいる

本に夢中で、日吉くんの声に気付かなかったことも一度や二度ではない







『……いやでも、日吉くんだよ?』

「アンタね、日吉くんだって一端の男の子よ
彼女に構ってもらえなかったら寂しいと思うけど」

『いやでも日吉くんだし』

「………………はーあ、ダメだこりゃ

日吉くんご愁傷様」



なむなむ、なんてふざけて両手を合わせる友人に首を傾げる



あの日吉くんが、私に構ってもらえなくて寂しいなんて思うだろうか


そもそも構うって何をすればいいんだ


恋愛経験がほぼゼロの私には、友人の話や本の中での話は、ただの物語の一部のようにしか聞こえなかった












***




昼休み、またいつものごとく図書室に向かい、いつもの場所に座って本を開く

司書さんに「日吉くんは一緒じゃないのね」とよく言われるが、別に約束をしている訳ではないし、クラスも違う


それを言えば、司書さんに「相変わらずドライね」と苦笑いされた










「自分が黒田さんかいな」



本を読み始めて数分後に、独特のイントネーションで低音な声が私の名前を呼んだ



聞き覚えのない声に不思議に思い顔を上げると、そこには見知らぬメガネの男子生徒がいた

その隣には、鮮やかな赤色が目を引く綺麗な髪の男子生徒



そっちの赤髪さんには見覚えがあった







『………あ、テニス部の』


「あれ、なんや俺たちの事知ってんのやな、これは意外」


『?

あの、それで私に何か』


「ん?いや、日吉の彼女ってのを見てみたいーって岳人がうるさくてな」


「ちょっ!おい侑士!お前が無理やり連れてきたんだろうが!!
俺は図書室は苦手なの!!」


「がっくん、ここ図書室やで、マナーは守り」



ぺし、と赤髪の先輩の頭を叩き、メガネの先輩が向かいの席に座る



そう言えばこの人、何度か見た記憶がある

たまに本を借りていく人だ











『??

私なんかを見ても、楽しくも面白くもありませんよ?』


「そうか?話に聞いてた通りやなーって思うとオモロイで?」


『話、ですか

日吉くんが私の話を?』


「おん

本ばっか構ってて日吉には全然構わない本の虫、って」


『………えっ』


「日吉、寂しがってるで?」





ニコニコと笑う先輩に、思わず間抜けな顔になる


あの日吉くんが、寂しがっている?

そんなまさか





それが顔に出ていたのか、メガネの先輩はクスっと笑った


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