小説用

□ぬくもり と おはよう
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大学付近の古びたアパート。
その部屋からは、春を知らせる桜の花が見える。

―あぁ、また春が来た。

鮮やかな金髪の青年は、寝起きでもやもやした目で窓の外を見る。
彼は何年か前から、この部屋の住人と二人暮らしをしていた。

「おはよう、ケンジ。」

青年はのそりと体を起こし、隣の部屋の壁にもたれかかっているもう一人の青年に微笑む。
ケンジと呼ばれたその青年に、返事はなかった。
肌は爛れ、真白く、目にも光がない。

「…まったく、ケンジったら。まだ寝てるの?」

金髪の青年…エージェントは、苦笑いし、ケンジの隣に座る。
彼は壁にもたれ、窓の外を指した。

「ほら、また桜が咲いたよ。今年の桜はきれいだねぇ。」

ケンジの返事はなく、また、ピクリとも動かなかった。
エージェントは気にせず話を続けた。

「ねぇ、今年こそはお花見に行こうよ。アリシアちゃんや、KKさんを誘ってさ」
「今日の晩御飯は何がいい?あ、月曜日は魚が安いんだよ」
「知ってる?この前またアシュレイさんとラムセ君が喧嘩したんだってよ」
「明日は雨が降るらしいよ?いやだねぇ…」

どんな話題を振っても、一向に彼から返事はかえって来ない。
風がサァっと吹いて、窓から桜の花びらが入ってきた。

ケンジの真っ黒な髪に、桃色の明るい花びらがひらりと乗る。
エージェントはそれを払ってやった。

「ふふっ、ケンジったら…」

くすり、と笑った。
彼の返事はない。
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