小説
□frustration
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ありえないと思った。
小学校卒業間近に言われたキルアの言葉。
「私立受験サボった。だから俺、中学からもゴンと一緒にいられるぞ!」
キルアと俗に言う恋人になってから、俺はキルアと過ごす時間を大切にしようと思った。
中学が離れてしまうから、一緒にいられる今を大切にと…思ってたのに。
いや、嬉しいんだけど…
『Please kiss me...』
4月、キルアと無事同じ中学に入学した。
小学校の頃と違って校舎は4階建て、クラスは6クラス。大体4つの小学校から進級してきた子ばかりで、知らない子が多い。
幸いにも俺はキルアと一緒のクラス。
初対面の人たちの中、緊張して自己紹介をしているクラスメイトの中でキルアは全く緊張感もなく名前だけ言って自己紹介を終わらせた。
その態度が女子の中で人気を集めてしまった。
「ゾルディック君ってなんかかっこいいよね。」
「本当は私立に行くくらい頭いいのに、めんどくさいからって受験サボったんだって。」
「じゃあ、めっちゃ頭いいんじゃん!」
「彼女もいないらしいよ。いらないんだって。小学校で何人もゾルディック君に告ってフラれたらしい。」
学校に着いた途端にキルアに対しての女子の話を聞いてしまった。
噂に尾鰭がついて歩き回ってるらしい。
(キルアは俺の恋人なのに…)
別に付き合ってることを隠してるわけでもないが、何となく言いにくい。
キルアとは普通に仲良く接しているが、それが周りには「小学校が同じだから」と認識されているらしい。
特別恋人らしい接し方はしてないからそういう風に見えてしまうのは仕方がないんだろうけど…
(そもそも恋人らしい行為ってなんだろう?)
一緒に登下校とか…でもキルア、朝が苦手だからなぁ…遅刻ぎりぎりだし。
キルアに合わせたら遅刻しちゃうし、朝の早い俺に合わせてもらうのも申し訳ないし…
帰りはまぁ…一緒に帰ってるけど、それも周りには「帰り道が一緒だから」と認識されてるんだろうなー。
(…俺って、そんなにキルアと恋人同士に見えないのかなぁ…)
恋人同士って他になにするんだろ…
…
………
――キス、とか…?
「……ッ/////」
思い出してしまった。
小学校卒業する半年前のことを。
キルアに告白されて、返事したときにそういえば。
(キルアとキスしたんだよなぁ…///)
あの時は驚いて思い切り頬を
ぶっ叩いてしまった。キルアは確かショックを受けていたな。
そういえば、あれからキスしてない。
(やっぱり叩いたのショックだったのかな…って!朝から何考えてるんだよ恥ずかしいっっ///)
思わず机に突っ伏す。顔は熱いし、頭から湯気が上がりそうだ。
(キス…キスか…)
キルアと、キス。
…あ、ダメだ。やっぱり湯気上がった…
…どうしよう…
キルアとキス…したい…
あの時は本当に急にキスされたから感触や味なんて覚えてない。
キスってよくマシュマロの感触とか、レモンの味って言うけど、どうなんだろう。
キルアの唇ってどんなのかな?
なんか冷たそう。
いつもチョコ食べてるから甘いのかな…
…ダメだ。恥ずかしい。
(頭冷やしてこよう)
席を離れ廊下へ出るドアへ向かった。開けようと思った瞬間にドアが目の前で急に開き、思わず一歩下がってしまった。
当たり前というか、お約束というか…キルアだ。
「ぅわ、ゴン!ビクッたー。おはよ。」
「キル…ぉ」
唇に目がいってしまった。
「〜///お、おはよっ!」
思わず走って逃げてしまう。これも言い逃げというのだろうか。
でも今の俺を見ないでほしい。
きっと顔真っ赤だから。
キルアを想って真っ赤になるなんて、やっぱり俺、キルアが好きなんだ。
かっこいいとか、頭いいとか、確かにそうだけど、違う。
(キルアはキルアで、すごいキルアで…そんなキルアが俺は好きなんだ。…って、
自分に追い撃ちかけてどうすんだ!もー!!キルアだから好きって、こんなの…心底好きなんじゃん!!)
とにかく走って、辿り着いたのは屋上へ続く階段の1番上。折り返し地点があるから下からは覗き込まない限り見えない。屋上への扉には鍵がかかってたけど、使ってない机や壊れた椅子が置いてあって隠れるのにちょうどいい。
(しばらくここで頭を冷やそう。まだ時間あるし…キルア今日は来るの早かったなぁ…って!またキルアのことを!!頭冷やさなきゃなのに!!…今頃、何やってんだろ。クラスの女子に言い寄られてたりして…)
そんなことがもしあったとしても、キルアは無愛想に返事して相手をせずに教室を出るか机に突っ伏すだろう。
…いや違う。キルアのことだ。ずっと一緒だったからわかる。
「こんなところで何してんだ。ゴン。」
キルアは俺を探し出す。
(今頃気づいても遅いか…)
軽く顔を上げるとキルアが目の前にいる。探し出してくれるのは何となく嬉しいが、今は困る。
(また唇に目いっちゃったし。)
「…キルア、おはよ。」
「さっき言ったぞ。」
即答され思わず顔を伏せてしまう。階段で体育座りみたいに座って足の間に顔を挟む。
「なんでこんなところにいるの?」
「…キルアの癖が移ったのかもね。」
もともと屋上へ続く階段の1番上はキルアがよく行く場所だ。小学校低学年の頃からずっと。
人が滅多に来なくて静か。先生だって来ないから、よく俺はキルアと一緒にここで話した。
(あの時も階段の1番上だったよな…)
キルアに飛び付いて、告白して、キス…
(キス、したいな…)
「ゴン?」
ちらっとキルアを見る。なんだか心配そうに見てる。
キスしたいって、言えばいいのかな?
キルア、嫌がらないかな?
あれ以来キスしてくれないのは、嫌だったからとか…
そうだったらどうしよ…
「ゴン、チョコ食べる?」
唐突に、すぐ隣に座ってるキルアがポケットからチョコを取り出す。キルアがチョコをくれるのは俺だけだ。
チョコ好きなキルアは絶対に人にあげたりしない。
とにかく俺と話したいんだろう。なにか会話の糸口を見つけて、俺の今の状況を知りたいんだろうな。
キルアの気持ちはわかってるけど、顔、上げられない。
キルアの顔を少しだけ見て一言。
「いらない…」
あ、不機嫌にさせちゃったかも。キルアの眉間にシワがよっちゃった。せっかくキルアにとって大切なチョコをくれようとしたんだもんね。
キルアは取り出したチョコを自分の口に入れて食べてしまった。
口に…
―――それはチョコのように甘いのかな?
思わず動いてしまった。
上半身を伸ばして片手でキルアの肩を掴みこっちを向いたキルアの唇にキス…
―――やっぱり甘い。
そして、柔らかくて温かい。
ただ押し当てるだけのキスだけどキルアを感じる。
キルアも唇を押し当ててきた。
唇がさっきよりも深く押し潰される。
ちょっと俺が身を引くと、キルアも身を引いて合わさってた唇が離れた。
唇が離れて数秒、見つめ合っていたが思わず顔を下に向けてしまった。
(どうしよう…俺からなんか言ったほうがいいのかな…)
『キスしたかった』いや、恥ずかしい。単刀直入過ぎるし。でも本当だし…それ以外…
「…ゴン。」
「あっ…っ。」
本日、2回目のキス。
キルアからのキスも2回目。
おまけに唇を軽く舐められた。
「…チョコ付いてた。」
「あ…」
(キルアの唇に付いてたチョコが俺の唇に移ったんだ…)
「ゴン、何か俺に言うことは?」
「えっあ、その…」
恥ずかしいけど、嘘じゃないんだ。
「…キルアとキス…したかった。」
言った瞬間に強く抱きしめられた。階段で座ってるから、ちょっと体制変だけど。
瞬間に見えたキルアの顔は赤かった気がする。
「ゴンからしてくれると思わなかったから、驚いた。」
「〜〜っ///だって、その…いろいろ考えたら、その…」
軽く身体を離してくれて、
「いろいろって、なに?」
俺にだけ向けられるそんな優しそうな目で見られると、何も制御出来なくなる。
「…クラスの子たちがキルアのことかっこいいって。別に、キルアが浮気するとか疑ってるわけじゃないよ。でも俺、キルアの恋人なのに恋人らしく見えないのかなって…」
なんかそれで不安になっちゃって…
伝わっただろうか。俺の気持ちは。ううん、伝わらないだろう。そんな簡単に伝えられるような気持ちじゃない。
「…公開宣言する?」
「いや、そうじゃなくて…ただそれで恋人らしいことってなんだろうって考えてたら、その…キスが浮かんで…///」
それ以上は言わせないで。察してください。
「なんだそっかーっ。」
「え?」
「いや、俺ゴンがキスするの嫌いなのかと思ってた。前に突き飛ばされたし。」
「あ、あれはいきなりだったから!」
「そっかそっか〜ゴンもそうか〜」
あまりにも嬉しそうに言うから、俺もなんだか嬉しくて、でも恥ずかしくって。
「そ、そんなに笑うことないだろ!もうキルアのバカ!知らない!」
思わず逃げてしまった。
ちょうどその時、始業ベルが鳴り初めた。俺達は慌てて教室へ向かって走り、滑り込んだ。
「あーあ。せっかく早く来たのになんで走る羽目になるんだよっ。」
「毎日早く来ればいいでしょっ!」
「ねぇ、ゾルディック君…」
「あんな風に笑うんだ…」
キルアが俺にだけ見せてくれる笑顔は、どうやらこの時クラスみんなに見られたらしい。
そのおかげで、俺とキルアは付き合ってるということをみんなが察してくれた。
(ゴンがキスしたかったなんて…やべぇ、嬉しくてしょうがない。俺、こっから先、我慢出来るかなぁ…)
続く...