SHORT U

□ノア家の日常・特別編2
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「アレンがいない」

大部屋の真ん中にある机に突っ伏してロードは小さい子供が駄々をこねるみたいに足を振った。
椅子が高く地面にその小さな足は届いていない。

「ルル、アレン来るよね?」
「ええ、きっと夜に来るんでしょう」

後ろでクリスマスツリーの飾り付けをするルルは何もしないロードを咎めるでもなく、手を進めながら答えた。

クリスマスにパーティをしよう、と言い出したのはロードだった。
白い小さなお城のようなキャメロット邸では、御嬢様の一言で決まった今日のパーティの準備でメイドたちが忙しなく動き回っている。
「身内だけでやりたいなぁ」と零せば招待状が外部に届くことはなかった。
全てはロードの思惑通り。
クリスマスパーティというのは名目だけで、本当はアレンの誕生日を祝うつもりだった。

「美味しいものが食べられるから、アレンも来て!」

アレンも来るなら千年公がたくさん用意してくれるよ、と適当なことを言ってアレンを事前に誘う。
もともとアレンには千年公から言い渡されること以外に決まった仕事はない。
キャメロット邸で過ごす穏やかな時間も好きだったアレンには断る理由などなかった。

「キャメロット家もクリスマスをお祝いしたりするんですね。当日、お邪魔させてもらいます」
「待ってるから!」
「ありがとう、ロード。楽しみにしています」

そんな会話を思い返して、ロードは顔を上げる。
アレンは約束を破ったりしない。
けれど、あの性格なら早く来て準備をしたりするとも思った。
何か用事があったのだろうか。
勘繰っても何も答えは出てこないが、ロードは考えずにはいられなかった。





「女の子のクリスマスプレゼントにしたいんですが、どういうのがいいんでしょうか」

アレンはロードに以前一緒に来たアパレル系のショップを訪れていた。
一緒に来た、というのは語弊があると言ってもいいほどアレンはその買い物においてただの付添い人と化していたが、ロードはよくアレンと買い物をしたがるのでこれまで行ったたくさん内のひとつで特にロードが好きそうなタイプの店を選んでアレンは今日ここに来た。
アレンにはロードが一緒に出掛けたがる真意が分からなかったが、ロードが隣で楽しそうに過ごしてくれるのを見るのは好きだった。


「こちらはいかがでしょうか、クリスマス新作のチョーカーです」

ショーケースをいじっていた店員が黒いトレーに首にあたるところが深紅のリボンになっている黒い宝石をあしらった十字架の付いたチョーカーを入れて見せる。
アレンはそれを覗き込むように見て、首を傾げた。

「チョーカー……これファッションとして着けるんですよね?」
「当店では人気のアクセサリーとなっております」

チョーカー、なんて言い方をすれば素敵なアクセサリーかもしれないが、首輪と何が違うのだろう。
束縛。そんな2文字が浮かぶ。
これを渡せば喜んでファッションとして身につけてくれるかもしれないが、アレンはあまり乗り気がしなかった。

「えっと、同じデザインのネックレスとかないですか?」



店員、もといAKUMAに会釈をしてアレンは方舟に消えた。
右手に持った紙袋を見て、ロードの笑顔を想像し微笑む。
キャメロット邸の門をくぐるに相応しい正装とパーティのドレスコードを考えたが、大していつもと変わらない黒のタキシードに身を包み、目的地へと繋がった方舟を出た。
パーティが行われるであろう大部屋へ繋がる廊下への扉を開ける。
窓から入り込む外の光は穏やかな橙色。日が沈み始めていた。

「アレン! 待ってたよぉ」

いち早くアレンの訪れを察知したロードがアレンに駆け寄る。
抱きつくロードを抱き返すと、頬に軽いキスを落とされた。

「ロード、遅くなってすみません。まだ何か準備で手伝えることはありますか?」
「あとは全部やってくれるからいいよ。アレンは僕とずっといて?」
「いいですよ、でもその前に」

アレンはロードを引き離して、紙袋を渡した。

「メリークリスマス」
「えっ……プレゼント?」

ロードはすぐに受け取らず眉を顰めたが、アレンにはその意味が分からず困惑する。
喜んでもらえると思った。
だけど、目の前にいるロードの反応は少なくとも喜んでいるようには見えない。
アレンはどう言葉を続ければいいのか迷い、とりあえず笑顔を浮かべた。

「いらなかったですか、ね。すみません。でも、よかったら受け取ってください」

ロードの小さな手を掴み開いて、紙袋の持ち手になっている紐を無理矢理握ってもらう。
アクセサリーをたくさん持っているロードにとってこのネックレスはあまり価値がないかもしれないけれど、着けてくれたら嬉しい。
しかし、ロードは目を丸くしたままだ。

「あの、ロード」
「……用意してくれてると思わなかったから驚いたぁ。ありがとう」

ようやく柔らかい笑みを浮かべて、ロードは再びアレンに抱きついた。
想像していた笑みに、安堵と喜びから自然とアレンも笑みが零れる。
ロードの笑顔が見れて、それだけでこのプレゼントを用意してよかったと思える。
それほどに、アレンはロードを大切に感じていた。

「でもね、アレン。今日はクリスマスパーティもするけど、本当のメインはアレンの誕生日をお祝いすることなんだよぉ」
「……え?」
「今日じゃないってみんな知ってるけど、お祝いさせて?」

ロードがアレンの手を掴んで、大部屋の重い扉を引き開ける。
目に飛び込んでくる、華やかな装飾とたくさんの笑顔。
幸せが、そこにはあった。

「おめでとう、アレン」




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