2013 土方祭

□貴方がここに在る理由、そして私が在る理由。
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「もう、いいです。」
電話の向こうの声がそう言って、プツリと電波の切れる音がした。
いつも、ケンカはたわいのないことで起こるもの。
くだらねぇと思いながら、譲れねぇ頑固者同士。
折れりゃいいものを、そこで意地を張り合っちまう。
いい大人が、全くみっともねぇ話なんだがよ。


『貴方がここに在る理由、そして私が在る理由。』


あいつが卒業して、1年が経ち、すっかり大学生活が板について来た。
それまでは自分の目の届く範囲に居たものが、全く知らねぇ場所で暮らしてるんだ、そりゃあ、気にもなるだろうよ。
ましてや、脱皮の途中みてぇな年頃。
他に悪い虫が寄りつかねぇとも限らねぇ。
…あいつにその気がなくとも、な。

俺の仕事が多忙を極めているのもわかっているから、あいつはむやみやたらには「会いたい」なんて言わない。
それが、珍しく、どうしても。なんて言うもんだから理由を聴いた。
なのに、答えやがらねぇ。

理由もわかんねぇのに、仕事放っぽる訳にゃいかねぇんだよ。

これが、火種だ。

…今更、思い返したって、時間が戻るわけじゃねぇ。
暫く、様子をみるか…。

俺は一人ごちて、ベランダで煙草に火を着けた。
あいつが煙草の煙が苦手だから。ここで吸うのが癖になっちまった。
そのくらい、あいつが俺に及ぼしている影響は大きいのにな。

煙が、夜の光の中に溶けるように広がって行く。
そんな様をただ、見つめた。

***

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