土方祭2014

□恋のお題−6
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「わ、ねえ、あのひとたち、今チュッて!」
ヒソヒソ声の方が閑静な密室では響くってことを、お前は知ってるのか?
「阿呆。こっち振り返ってんだろ。」
ふぅ。とため息をついて天球を見上げる。

早朝のプラネタリウムは、意外にも人気があり、朝早いにも関わらず満席に近い状態だった。
ほぼ貫徹で夜通し遊んでからの、コレだ。
やつのテンションも少し可笑しな具合にはなっている。
酒っ気も残っているのか?微妙に気にはなったが、いつも以上に落ち着きがない。
「ね、可愛かったね!二人だけの秘密だよ。みたいで。」
先程よりは気を遣って小声でそんな話をする。
「あー。まぁ、お前の方が可愛いがな。」
「あ、なんか、ちょっとテキトーじゃない?その言い方ー。」
思ってもないこと言っちゃいましたって感じに聞こえるー。
ボソボソと文句を言うもんだから、
「しっ!お前少しお喋りが過ぎる。」
その口元に指を押し当てて、そう言って。
「…お前、俺の言葉がしんじられねぇってぇのか?」
意地悪く口の端で笑って、その目を覗き込んだ。
「…し、信じる…。」
「わかりゃあ、いいんだ。お前に対する俺の想いなんてのは纏めて花束に出来るくれぇにはあるんだがなぁ?」
「えー。嘘ー!」
館内に響き渡る。

「…だぁからぁ、しっ!」
押さえつけて、今度は口をがっつり手で塞いだ。
「…ゴメンなさい。」
くぐもった声がそう言った。
「お前よぉ、信じてねえな?」
耳元にそう迫ると、くすぐったそうに顔を背けた。

…なんだ?好い反応返すじゃねえか?
俄然、悪戯心に火が着いた。

「さっきの、あいつらみてぇに、キスしてやろぅか?」
ニヤリ、笑って見せると、一気に顔を紅潮させて、真顔になる。

「こ、ここで?」
「ああ。」
「…初めてなのに?」

はぁん、そぅぃや、そうだったな?
こいつがその気になるまで手を出さねぇと自分に立ててた誓いだ。

「そぅだったな。わりぃ。」

その身体を離して、座席に落ち着く。
いつの間にかプログラムが終わり、上演時間も終盤だった。
暗転して、ややしばらくの闇。
やつの姿も闇に攫われたかのように見えなくなる。

お子ちゃまからの脱皮は、いつになるかね。
隣にいるやつの手が、俺の手をおずおずと握りしめた。

そうして、また頭上に一面広がる星空をぼんやりと眺める。

晴れの日も雨の日も、その星の瞬きは絶えずそこにある。

キラッキラしてんな。

俺にとっちゃ、お前はそんな存在なんだってのを、いつになったらちゃんと解ってもらえんだろな?


握られた小さな手に、自分の指を絡めて。所謂恋人繋ぎにして、ぎゅうと握りしめた。
首だけ横を向くと、同じように首だけ動かして俺を見てる。
ふっと、微笑みかけると、はにかんだ表情でやつが、ポツリと
「怖くないって言ったら、嘘になるけど…」
上目遣いのまま、その顔を近づけた。

おいおい。
天然で、煽ってくんな?

それは、その気を見せたって理解していいんだな?

「後には引けねぇぞ?」
華奢な顎に指をかけて、至近距離でそう囁くと、コクリと上下に頭(かぶり)を振った。



徐々に照明が明るくなるのも気にも留めず。
ふ、ぅん。と甘い吐息が漏れた。


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