おいでよ天才達の森
□第四話
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「村長!」
「三人とも、失礼ですよ。挨拶もしないで…。それに…ここでの呼び方は決めたはずです」
「あっ、すみません、ワタリ」
ワタリさんと呼ばれた老紳士は私を中へと導いた。
役所は中も広くて部屋が何部屋もあるみたいだった。
二つドアを開けて入った部屋には長いソファと机だけという至ってシンプルなところだった。
エアコンは寒すぎず暑すぎず調度良い温度でかけてあり、外とはうって変わって心地が良い。
『あ、あの、どうして今日引っ越してくる人を皆さん男の人だと思っていたんですか?』
私はずっと抱いていた疑問を彼にぶつけた。
「ふむ…その件ですが、最近この村では村人の入れ換えや新しい住民の受け入れを拒否するようになりました」
『受け入れを…拒否……?』
「はい。この村は少々人数が多すぎてしまっているのが現状です。しかし男性ならば力になるから受け入れが可能と言われました」
『…どうして嘘をついてまで私を受け入れて…?』
フッとワタリさんの細められている瞳に影が指した気がした。
「貴女は…ご両親をあまり快く思っていないのではありませんか?」
『………』
どうして知っているのか、どこまで知っているのか、訊きたいことは山程浮かんできた。
でも何故か訊けないのはこの人は全てお見通しな気がしたからかもしれない。
「貴女の存在を知ったのは、ここイギリスではありません」
『!』
私がここに来たのは日本で産まれてから十年後のことだった。
となると、今から八年前のことになる。
イギリス人の父と日本人の母との出会いは、ドラマのような美しい出会いなんかではなかった。
父は昔から酒飲みの女好きだった。
先に惚れたのは父だった。
バーで働いていた母に手を出して私を授かった…
いや、授かってしまった。
二人は互いに惹かれ合っていたため私を産んだ。
でも産後は酷いものだった。
まるで互いが互いしか愛せないとでも言うように私を放っておいた。
育児放棄にならない程度に…でも私からすれば完全な放棄だった。
たぶん周りの人が見てもそう思うだろう。
お金はあった。
有り余るほどに。
イギリスの祖父が名の知れた資産家でこちらにもお金が回ってきたのだ。
私は十歳になると、家のお金を隠してあった場所から札束を十個くらい掴んで家を出た。
パスポートは、よくイギリスに行っていたから持っていた。
しかし同行者がいないと……
『まさかあの時の……』
そこで私はやっと思い出した。
‘お嬢さん、私とイギリスに行きませんか?’
“おじさん誰?”
‘貴女を守る義務のある人間です。’
あの人だ…
空港で初めて会った私と一緒にイギリスに来てくれた…。
「はい、そして日本にいる時に少しだけ監視をしていました。私は貴女のほとんど全てを知っています」