おいでよ天才達の森
□第七話
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辺りの木々には果物が沢山実っていた。
『果樹園だったところをそのまま村にしたのかな?』
ブドウにナシにリンゴにサクランボにオレンジ。
美味しそうだなと思い、サクランボの木に歩み寄った。
木の枝に小さなプレートがあった。
『ご自由に…お食べ下さい……?』
どうやって?!
確かに木は高さが普通の木よりは低くて、手前に立てば一番低いところにある葉っぱが頭に触れる程だった。
でも問題の果実はジャンプしないと取れそうにない。
食べたいけどそこまでして取るのは少し気が引ける……。
食欲と理性とが猛烈な争いを繰り広げていると──…
「よっ、と──」
『?!』
後ろから風のように何かが通りすぎて我に返る。
コツッ
『へ?』
頭に何かが降ってきて落ちたそれを見るとサクランボだった。
「食べたかったんだろ?」
上を見ると綺麗な金髪の上下黒いTシャツとズボンの男性──…メロさんが木の頂上付近の枝に座ってこちらを見下ろしていた。
頂上と言っても三、四メートル程の高さだ。
でも──…
『あっ、危ないです!下りてきて下さい!』
「心配するな、いつもやってる」
『でも──…』
「良いから、ほら。手出して」
『………』
釈然としないものの言われた通りに両手を並べて皿の形を作る。
するとメロさんは身近にある実をボトボトとそこに落としていった。
『すごい…こんなに沢山!
メロさんありがとうございます!』
あっという間に両手いっぱいのサクランボが取れた。
『メロさん!一緒に食べましょう?』
私は笑顔で木の上に座る彼に言った。
「あんたのために取ったんだけど…」
『はい、でも一緒に食べたいです』
しばらく驚いたような顔をして私を見ていたメロさんは少しだけフッと笑って「分かった」と言って下りてきた。
木の根っこの所に二人並んで座る。
メロさんの左手と私の右手には大量のサクランボ。
『甘くて美味しいんですね』
「あぁ、でも俺はこっちよりも……」
率直な意見を述べると彼は一粒口にして正面を向いたまま言った。
『こっちよりも?』
「チョコレートが好きだ」
『……えっ?』
至って普通の表情で言われたから余計に驚いた。
チョコとフルーツ比べちゃうの?
『な、なるほど…チョコレート美味しいですもんね』
「あぁ。…それよりさ、さん付けと敬語やめれば?どうせ歳はそんなに変わらないだろ。俺十九、アンタは?」
『あっ、十八です──…じゃない、十八だよ!』
「フッ、言い直した」
そう言ってクスクスと笑うメロはとても綺麗だった。
『メロって綺麗だね……』
「はっ…?」
気が付けば勝手に口にしていた。
彼は驚いたのか、目を大きく開いてこちらを見た。
『あっ…何か今、勝手に口から出た。ごめんなさい…』
何となく目を合わせずらくて視線を下へとむけた。
男の人に綺麗は失礼だったかな…と若干の後悔。
でも素直な意見。
「………」
何となく視線を感じるからこちらを見ているのが分かる。
「やっぱり変わってる…変なヤツ」
頭に何かが乗ってきた。
メロの右手だと分かる頃にワシャワシャと頭を撫でられた。
……グシャグシャにされたと言った方が合ってるのか…?
その合間に見えたメロさんの少し赤くなった笑顔を見るとやはり綺麗だと思った。