おいでよ天才達の森
□第九話
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しばらく同じ体制でいたら私の右肩に頭を乗せている彼が小さな寝息を立てていた。
『………』
起こさないようにそっと彼の髪をすく。
最初見た時は怖そうで話しかけずらそうだな…と思っていた。
でも本当は優しくて寂しがり屋なんだと分かった。
そのことが何故か嬉しく思えた。
次第に私の瞼も重くなってきていた。
駄目よヒヨ…今寝たら夜寝れなくなっちゃう…。
自分で必死に言い聞かせる。
が
無駄な努力に終わった。
小さな寝息と共に、メロの方へと頭を預けた。
…………………………
「……ん…」
右肩に微かな重みを感じ、目が覚める。
そっと目を開けると大きく開いた俺の足の間に小さく細い膝があるのが分かった。
ということはこの右肩の重みはヒヨの頭だろう。
ついさっきみていた夢の内容を思い出す。
子供の頃の俺の頭を優しく撫でる綺麗で大きな手。
顔は霧がかって見えなかった。
しかし懐かしさを感じた。
あの撫で方は、母さんのそれにとても似ていた。
でも違う…母さんじゃない。
じゃあ誰が──…
『…んぅ………』
急な呻き声にハッとし、隣を見ると寝返りをうって顔がこちらを向いていた。
頭を起こしても今の体制では彼女の顔の下半分しか見ることができない。
それにしても…本当に変わった女だ。
男の前で無防備に寝始めるわ、男だらけの村に一人でのうのうと越してくるわ…大丈夫なのか?
彼女の唇を見つめる。
見た感じ何も付けていなさそうだったが、荒れてもいないし色も綺麗で、何を思ったか触りたいと思った。
右手をそっと彼女の唇へと近付けた……その時。
タラーリ
「…なっ……!」
俺の手の指に涎を垂らしやがった。
急いでズボンの左ポケットからハンカチを取り出し、彼女の口へと押し当てる。
何なんだコイツは!
寝ても覚めてもムードの欠片も作れないのか?!
彼女の肩を軽く揺すり、起きないことを確認した後に木へと寄り掛からせる。
『…ん……』
左に頭が傾き倒れそうになったところを寸でのところで、木に腕をあて、抑えた。
俺の腕に寄り掛かる彼女は、とても幼くみえて…
守りたい
何故かそう思った。
恋愛とかそういうのではない。
家族に近い感情。
とても大切な…そんな感情。
今日の俺は変だ。
過去の事なんてマットやワタリにしか話したことがない。
それなのにほぼ初対面の…こんなムードもない女に話してしまうとは…。
別にムードを求めている訳ではない。
でももう少し空気を読んでほしいだけだ。
素で天然なのか?
今日の俺は変だ。
そうだ。変だから
天然でも
ムードが無くても
一緒にいて守ってやりたいなんて思ってしまうんだ。
傾いた反動で顔にかかってしまっていた髪を、そっと耳にかけてやる。
その右手をそのまま彼女の頬へと滑らせた。
ゆっくりと顔を近付ける。
鼻先が擦れあった時──…
「寝込み襲うなんて、ヤッラシ〜♪」
邪魔が入った。