おいでよ天才達の森
□第十話
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「……また村外れのブドウを食べたのか…」
「別に良いだろー!ブドウ食いたかったんだ!」
五歳児の体になってしまった、哀れなスキンヘッドを見る。
「それよりもあたらしーオンナかよ!メロもやるなー!」
「…頼むから消えてくれ、ロッド」
そう、この鼻垂れ小僧は他の誰でも無い、ロッドだ。
この村には変わった木がある。
幹は深緑で、葉は暗い紫に近い色をした物騒な木。
その木にはそこから実ったとは思えない程、綺麗で光沢のあるブドウがなる。
しかし蛙の子は蛙と言うように(少し使い方が違う気もするが…)物騒な木に実る実も物騒なもので…。
信じられないだろうが、一粒食べると五歳児の体になってしまう。
そう、このバカみたいに。
ロッドは昔、相当ヤンチャだったらしい…。
この実は体だけでなく、心までも五歳児に戻してしまう。
厄介だがとても面白い。
「あっ、もうすぐ三時だ!ママがオヤツ作ってくれてたんだ、行かなきゃ!じゃーなメロ!」
そう言うとロッドは顔に──…いや、キャラに似合わずスキップしながら消えていった。
アイツは一応マフィアのボスをしているそうだが、地元愛が豊富で、ここをとても大事にしている。
変な話しだ…向こうでは狼でこっちではワンコか…。
俺はフッと鼻で笑い、まぁそんなヤツも嫌いじゃない…と思っていた。
…………………………
「…──ね……ごめんね……」
この声は……誰?
懐かしい。
でも思い出せない。
暗闇の中、しゃがみこむ私に話しかけるアナタは誰なの…?
急に目の前に人が現れる。
あぁ…これは夢なんだ。
だって今目の前にいる人はお母さんなんだもん。
泣いている…正真正銘私のお母さんなんだもん…。
きつく目を閉じ、下を向く。
しばらくすると声が聞こえなくなり、前を向くと誰もいなくなっていた。
泣いた。
夢の中だけど悲しくてワンワン泣いた。
あれは…きっとお母さんだったから……。
『……ん………』
誰かが走り去るような足音で目が覚めた私は、ゆっくりと目を開いた。
目の前には金色のフワフワした物体。
『…!何これ?!』
そう叫んだ瞬間にそれは動いた。
目を擦り、よく見てみるとそれはメロの後ろ髪で、叫びを聞いたメロが振り向いた。
「何だ、起きてたのか」
彼は少し驚いた顔をしていた。
でもその顔をしたいのは私の方だ。
『へっ……』
「…へ?」
『変態ーーーっ!』
ドンッとメロを突き飛ばし、荷物を持って走り去る。
が、途中で捕獲される。
「待て!変態って何だよ?!」
『ね、寝てる人に何かしようとしてたじゃんっ!』
ジタバタしても、彼の腕を掴む力は弛まない。
「何かって何だよ!」
『恒例のユセイマジックで落書き大会とかでしょ?!』
「…は……?」
メロの力が弛んだ隙に脱け出し、少し距離をおく。
『ま、まさかもう書いた後とか…』
私はショックで口元を手で覆う。
「違う!大体、人の手に涎垂らしておいて謝罪の言葉は無いのか!」
『へっ…?よだ…れ……?』
何のことかサッパリ分からない。
「お前が俺の肩に頭を乗せて寝てる時だよ」
さっきよりも落ち着いた言い方にホッとし、記憶を遡る。
たしかメロの髪を撫でていて…あっ、その後に眠くなっちゃって眠っちゃったんだ!
でもおかしい…。
『私…口開けて寝たこと無い』
「………」
メロは冷静に考えだした。