短いお話
□strawBerry jum
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『ん〜……もうちょっと砂糖入れようかな…』
ヒヨは、既に大さじ五杯のグラニュー糖を投入してある淹れたてのコーヒーに更にもう一杯のそれを入れようとしていた。
テーブルの上のカップの隣には彼の顔には似合わない甘い甘い大好物。
うん、入れてしまおう!
コポコポと音を立てて沈む小さな砂糖の塊を見る。
この砂糖みたいに…彼も私に溺れてくれれば良いのにな……。
ぼんやりとそんなことを考えてハッとする。
な、何考えてるの私!
考えを頭から抜け出させようと首をブンブンと振る。
彼の大が付く程の好物であるイチゴジャムと暖かいコーヒーをベッド横の机の上に置く。
『……遅刻するよ?』
ツンツンと彼の柔らかい頬をつつく。
あと二十分で職場にギリギリ間に合うことのできるバスが発車してしまう。
というのにこの人と言ったら…
「んん……あと五分……」
『貴方の五分は三十分間のことですか?もうそれ六回目だよ?』
「う〜…。………」
さらさら起きる気配がない。
いや、起きてるけど起き上がることをしようとしない。
しまいには、うつ伏せの状態で顔をあちらに向けてしまった。
寝息まで聴こえてきた。
『もう……知らな──…キャッ!』
強い引力に驚いて目を閉じる。
幸い引っ張られた方はベッドの方だったから、それほど強い衝撃は受けずに済んだ。
『ったたたた……もう、何す──…っ!』
私の上に覆い被さってきた彼を睨もうと目を開けたが、もう一度閉じるはめになった。
彼は寝る時はいつも半裸状態で寝ている。
白をあまり好まないらしく、布団は真っ黒で彼が履いているパジャマのズボンも真っ黒。
その黒にあまりにも映えている彼の白い肌は、何だかとても色っぽくて見ていられない。
『んぅっ?!…っ……!』
私を布団でくるむ様に抱き締めてきた彼は夢中で私の唇を啄む。
『や…めっ……!』
「な・い」
そう言うといたずらっぽく笑ってからイチゴジャムを一口手で取り舐めると、またキスをしてくる。
でもそれはさっきの啄むだけのようなそれとは違う。
深く
深く深く
もっと深く
まるで
溺れているような
抜け出せないような…
息が苦しくて彼の肩にそっと手を押し当てると、それさえも奪われてしまう。
結局私も深みに、はまってしまったら抜け出せないんだ。
違う…抜け出そうとしないんだ。
『…す…っ、き……』
やっとのことで出した声は小さくて聞こえてるか不安だったけど…。
「ふっ……」
初めてこんなに良い笑顔を見た、と言える程柔らかい表情をした彼を見て…そんな不安なんて一気に吹き飛ぶ。
そんな
甘い甘い
イチゴジャムよりももっと甘い
彼と
笑顔と
唇は
私自身をも甘くする…
『ずる休みは今日だけだよ?』
「クックックッ…分かってる……」
『その笑い方じゃないと思う!』
「ぞぞぞぞぞーー!」
『ん〜…合格!』