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□Speak low if you speak love.
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あの賞を獲ってから、もう8年も経つのか――――


8年前は「桜場徹」といえばそれなりに名の知れた作家で、そこそこ知名度もあった。
小説だって何冊かは単行本として出版され、売上だって悪くなかった。

ただ、良かったのはそこまでで。
売上が右下がりになり、売上が横軸と平行になるのに時間を要することはなかった。
今の時代小説家なんてのは数え切れないほどたくさんいるし、新しい時代の波に乗れていないと言われればそれまでの話。

今の自分には、何もない。そう改めて自覚したのは30代後半に突入した頃だった。
周りは皆結婚し、子供がいて、幸せな家庭を築いているのに、俺は一人暗い部屋でいつどこに載るかも分からないどうでも良い文章を書き綴っている。
結婚したい、そう思っても今の自分じゃ結婚してくれる女性はいない。そりゃこの歳でろくに稼げもしない旦那なんて、な。

そう半ば諦め気味な思考にたどり着いたのも何年か前の話。独りのまま桜場徹は40を過ぎていた。
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