少しでも、あなたを記憶の片隅に。

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青春はあの場所から


転勤族って辛いな。
そう思ったのは小6の時で、初めてだだをこねたのも小6だった。だってせっかく仲良くなれた友達と同じ中学に行けないし、新しい学校だってそれなりにグループはもうあるだろう。人見知りが激しいわけではないけれど、どっちかって言うと苦手。
3年に一度はほぼ転校している私の家族構成は、父、母、姉に私の4人で、父は保険会社に勤めている。今は就職難だし、色々と大変だと父は言っていた。(これを小学生の時に言われてもなかなかピンとこない。)
今までに引っ越してきた都道府県は東京、神奈川、大阪に千葉。どこも3年間しかいないわけではないが、一番長くても5年だった。
ただこの5年間というのは私にとって特別な時間であって、他のどの都道府県より勝る。
私は早くこの場所に帰りたかった。高校だってそこがいい。たとえ独り暮らしになったとしとも…。そう毎日祈っていた私に、中2の夏、嬉しい話が入ってきた。

「実は父さんの仕事場が本社に安定したんだ。だから――…お前が帰りたかった神奈川に帰れるぞ。良かったな。」

私はあまりの嬉しさに早速神奈川の友達に手紙を書いた。小学生の時に仲良かった友達の顔が次々に浮かぶ。私は夢中で手紙を書いている時、急にある人の顔が思い出された。

『あ…。そういえば、ひーちゃん元気かな…。』

それは幼馴染みの顔だった。女の子の友達は何回か手紙をやり取りし、そのたびに写真やら何やら入っていたので、今どんな感じなのかすぐにわかった。
しかし男の子は写真どころか、返事すら来ない。
私は2通送って、彼に手紙を書くことを断念した。

『…ひーちゃんにも会えるのかな。』

高校受験を頑張ろうと思った中学2の初夏だった。

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