少しでも、あなたを記憶の片隅に。
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あの頃は
「やっぱり、ひーちゃんだ…。」
私も両手に持っていた荷物を落としそうになった。
ずっと探していた人をやっと見つけたのだから。
しかし、私の喜びもむなしく終わった。
「…てめぇ誰だよ。俺はこんなブス知らねーぜ。」
久しぶりに見かけた幼馴染みの一言は、私の心を大きく揺らがした。
あれ、本当にひーちゃん?
バスケが大好きで中学も高校でも絶対続けると宣言した、三井寿なの…?
「鉄男、行くぜ。」
あぁ、
鉄男と呼ばれた人はそう返事をし、放心状態私のところに一歩足を進ませて耳元でつぶやいた。
「あいつとは何かあるみたいだが、今のあいつは昔のあいつじゃないぜ。バスケなんかとっくにやめちまったよ。」
じゃあな、海南のマネージャー
鉄男と三井の一行は私の前から姿を消した。
「――なんで…。ひーちゃん、なんで、なの…?どうしちゃったの…?」
どうしてバスケを―――
「ななしの!!」
帰りが遅い私を心配して牧君が走ってきた。
どうした?
何かあったのか?
牧君は泣いている私の肩を掴み、向き合ってくれた。
「ま、きく、んっ…っく」
「…なんだ。」
「ありが、とう…。」
「あぁ…。」
彼は私の背中をさすりながら一緒に帰ってくれた。学校に着くと同じく心配してくれた部活の人や、マネの先輩が来てくれた。
皆には近くに変な不良たちがいるから気をつけてくださいとだけ述べ、今日は先に帰らせてもらうことにした。
牧君が送ると言ってくれたけど、散々練習を抜けさせてしまったので丁重に断った。
学校から駅まで20分。私はぼーっとしながら歩いた。
『牧君って本当に優しいよね…。さっきだって背中さすってくれた。』
昔だったら、
あのポジションはいつもひーちゃんのだった。
年月が彼を変えてしまったのだろうか。
私は今日はもう何もしたくなかった。