少しでも、あなたを記憶の片隅に。
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越えなければいけない壁
「先輩着きましたよ。」
「…あれ、一軒家じゃない…。」
「まるで三井さんの家を知ってるかのような言い方ですね。」
「…。」
神君って侮れないと思う。なんかこう――読めないというか、なんというか…。
…私が単純なだけ?
「じゃあ、俺はここで失礼します。駅はすぐ近くにありますから。」
「ありがとう、神君。」
「いえ。ではまた明日。」
神が行ってしまった後、なっちゃんはというと、三井宅の前でいまだにチャイムを鳴らせないでいた。
『これでいなかったらいいんだけどな…。』
でも折角神君が送ってくれたんだしと思うと、押さざるを得なかった。
ピンポーン
…。
ピンポーン
……。
ピンポンピンポンピ「だぁ!うるせぇなぁ!」
「うわっ!」
「…。」
「…。」
お互いに沈黙がはしる。
「…おい、お前ちょっとこ「…ごめん。」――はあ?」
「だからごめんね、って…。」
「…一旦入れよ。」
なっちゃんは言われるままに三井の家に入る。
部屋は煙草の匂いなんかしなかった。