少しでも、あなたを記憶の片隅に。
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成長≠変化
リビングと思われる部屋に通され、正座して彼が来るのを待つ。机の周りとは言うと、コンビニになどで買ったものやカップ麺といった体によくないものばかりだった。
「…おい。」
「ひーちゃん…。」
彼は私の隣に近づいて来る。
「あのね、今日はひーちゃんに話があって―――」
急に視界がぶれる。
焦点があった時、見えたのは天井だった。
「――ひーちゃ…」
「お前夜に男の家に一人で来るっていい度胸してるよな。」
がっちり掴まれた腕、のしかかる体、とてもじゃないが女の子一人で歯向かえるものではなかった。
「やだ…やめてよ、ひーちゃん…。」
「海南の奴等から叩き込まれたか?」
「違うよ、違うってば…」
「いつからこんなやつになったんだよ!なぁ!」
「それはひーちゃんの方でしょ!!」
次の瞬間、なっちゃんの目から大粒の涙がぽろぽろ溢れ出した。
「変わったのはひーちゃんの方じゃない…!なんでなの…あんなにバスケが大好きで、高校でも続けるって幼馴染み約束したのは誰よ…。全国楽しみにしてろって言ったのは誰なの!」
今日来たのだって最近のひーちゃんを知りたくて来たんだよ
なっちゃんはそう言った。
俺は、なぜか手の力を緩めることができなかった。今にも折れてしまいそうなあいつの腕を、男の俺は容赦無しに掴む。いらいらした俺の心が勝手に動いていた。
「今日はもう帰るね…。今度ある海南との練習試合には戻ってきてよ…。」
俺の体を押し退け、慌てて玄関で靴をはくあいつの背中はひどく寂しいものだった。
バタンと音をたてて閉まるドア。
『今も昔も、私の心の中にあるのはひーちゃんのバスケしている姿だけだから。』
俺の心はまだ閉ざされたままだった。