少しでも、あなたを記憶の片隅に。
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時間は進み続ける
結局、昨日は神君に送り迎えしてもらった。
ひーちゃんの家に行って、一騒動してそれから――…
『…人間の脳って嫌なことは忘れるようにできてる、って本当なのかな…。』
私は今日の練習を休ませてもらい、久しぶりに朝遅くに起きた。まだ布団の中である。
三井寿ことひーちゃんとは幼稚園の年長の時に出会った。お互い近所で親同士も仲が良く、どこか行く時、いつも隣に彼がいた。
そんな彼は小学3年の時、地元のミニバスケットチームに入り、バスケの楽しさを知った。私も毎日練習を見に行き、時には少し遠い会場でベンチに座っている彼の出番を今か今かと待っていた。
時は流れて4年生の春。練習から帰ってきた彼は私の家の玄関を叩いた。『なっちゃん聞けよ!俺ついにスタメンに選ばれたんだ!もうベンチに座ってるだけじゃねーんだ!』
だから見に来いよ!
そう言われた矢先だった。あらかじめ小学校のどこかで転勤すると父に言われていたが、まさかこの時になるだなんて。
『本当に行くのか?』
『うん…。』
『俺のプレーしてる姿を見ずにか…?』
そんなの見たいに決まってる。ずっと練習してるの見てきたのだから。
でも父にどう駄々をこねようと反発しようと、無理なことは無理なのだ。
『…もうここには戻らないのか?』
『わからない。―――…でも、私だけでも絶対にこの町に帰ってくる。絶対に…。だから…その時までにあの技、完成させといてね?』
『ばーか、3ポイントは技とかじゃねぇよ。』
さりげなく、こうクィっと手首を曲げて―――…
楽しそうに話す彼を見ているのが楽しかった。
『なっちゃん…。俺さ、なっちゃんが神奈川に戻ってくるまでここで頑張るよ…。中学だって高校だって、なっちゃんがいるところどこでも俺の名が通るくらい、バスケで活躍してやる!夢は全国制覇だ!!』
「全国制覇、か…。」
ねぇ、ひーちゃん。
本当はバスケやりたいんじゃないの?
久しぶりに会った時は煙草吸ってたけど、家では吸ってないのよね?そんな匂いはしなかった。
私を押し倒した時だって…自分では手が震えてただなんて気づいてないと思うけど。
「まさか一人暮らししてたとはなぁ…。おばさん元気かな…。」
自分が住んでいた家の近くは、こっちに来て最初に車で見に行った。これといって変化はなかったが、一つあげるなら三井家の寿の名前のところだけ黒くなっていた。車の中から見ていたので汚れだと思ってあまり気に留めなかったが、今考えてみると納得がいく。
『いつからなの…ひーちゃん…。』
私は布団をかぶり直した。