少しでも、あなたを記憶の片隅に。
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春になった。
今年の入学式は例年と少し違うやり方になり、本来はない、午後に体験入部という形式をとった。
あっという間に過ぎる月日に驚きを隠せないでいるが、今日から私も3年生だ。
先月行われた先輩方の卒業式に涙し、一生懸命俺達をサポートしてくれと紳一に励まされた私は早速体験入部の準備をしている。
『1年生はまだHRだよね…。』
そう思っている矢先、物凄い足音をたてて誰かがこっちに向かってきた。
ダダダダダ―――…バンッ!
「1年2組11番清田信長、よろしくお願いしやすっ!!」
…なんだかすごいのが来たような気がした。
「あれ…まだ一人だけっすか?」
「の、信長君だっけ…?HRは終わったの…?」
「いえ、長そうだったんで出てきちゃいました!」
『こっ、この子…そんな満面の笑みですごいこと言わないで〜っ!まずいでしょそれは。…あっ。』
「紳一におてもやん〜!早く〜!こっちにいるのは体験希望者の清―――「清田信長っす!よろしくお願いします!」―――です…。」
「そうか。ずいぶん早かったな。」
「HRさぼりましたから!カッカッカッ」
ゴチンッ
「馬鹿者。海南バスケ部は文武両道、何があってもHRは必ず出ろ。」
「いたたた…」
『あーあ…。痛そうに…。』
「ちょっと待てよ…清田でしょ…。清田…今年弟が入る清田…。あーっ!あんた3年の清田香澄の弟でしょ!!」
「えーっ!そうなのおてもやん」
「…姉貴そんなに有名なんすか?」
「まぁね。ちょっとさ、今度お姉ちゃんに500円返してって言っといてくれない?2週間前に貸してから返す気配ないからさ。」
「まじっすか?!すぐ言っときます!あー、まじ意味わかんねぇあのクソ姉貴…。」
「…。」
でも―――
『あの姉にこの弟…想像ついてしまったことが恐ろしい。』
そう思う牧となっちゃんでした。
「じゃあ信長君、皆来るまでもう少し待ってもらえる?」
「はい…でも暇っす…。」
「そんなに暇なら俺と1on1するか?」
「カーッカッカッ!俺負けないッスよ!」
「すごい…あの牧に勝利宣言…。やっぱりただ者じゃなさそう…。」