夢物語

□日課【紫原敦/甘】
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「ちょーだい」

掌を彼に向けると必ず返ってくる返事。

「えー……一個だけだよ〜?」

これがいつもの日課。
むっくん……いや、紫原敦におかしを貰おうとするくだり。
こんな小さなことですら、幸せを感じる。
甘い日々なんて求めないよ。
ありのままのむっくんとあたし、それでいいんじゃないかなって思ってた。
特に恋愛に発展するわけでもなく、友達として毎日過ごしていた。

「名無しちーん」
「ぅわっ」

そうしていたはずだったけど、最近むっくんがよく飛びついてくる、と言うか飛び込んでくるが正解だろうか。
用心なことに、きづかれないように後ろから、しかも走ってやってくる。
もちろんあの体格の彼を、貧弱なあたしが支えれるわけもなく、前に体ごとふっ飛ぶ。
その度にむっくんが浮いたあたしの体を抱きしめて、あたしを抱える。

「もぉ、むっくーん?」
「んー?」
「最近よく飛び込んでくるね〜」
「そうかな〜?」

間延びしたのんびりした声が耳に届く。
……顔との距離が近い。
初めて間近で見た気がしてきた。

「……っ」

急に顔が熱を持っていくのがわかった。

「名無しちん真っ赤」
「むっくんのせーだっての……」
「うん、知ってる」
「……いじわる」

言い終わると同時に彼は、あたしの耳に唇を当て、ちゅっと音を立てた。

「ちょっ」
「名無しちんの髪の毛甘い匂いするー」

そのまま髪に埋まろうとする仕草をしてくる。
妙にくすぐったい。

「むっくん、くすぐったいよー」
「やだー」

最近の日課は、いじわるなむっくんとのちょっぴり甘い日々。

(ねぇ、名無しちん。知ってるー?)
(ん?)
(耳へのキスはね〜誘惑って意味があるんだよ〜)
(へぇ〜そうな……え?)

もっと甘い日々は、もう少し先のお話。

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