夢物語

□赤い証【黄瀬涼太/狂愛】
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もう、やめようか。
もう、別れようか。
もう、…………死にたいんだ。


「ぇ……今、なんて」
「だからね、別れよ??……涼太」

彼の顔がだんだん歪んでいく。何かを堪えるかのように、必死に唇を噛んでた。おい、それでもお前はモデルかよって、青色の彼に笑われるレベルに歪んで、目で訴える。

"なんで?!" "どうして……?!"

そんな彼の、悲痛な訴えを私は見えないフリをした。
聞こえない、聞こえないの。聞かせて、聞かせてよ、彼の声を聞かせて。何度も言い聞かせても、届く声は別物。

聞こえないよ。君の声も聞こえない。届かないよ。君の声も届かない。
聞こえるよ。あの女たちの醜い恨みが。届いたよ。あの女たちの醜い恨みが。

「理由は簡単。涼太のこと好きじゃないみたいなんだ。だから、別れようよ」
「ッ……な、んで」
「……もう理由は言ったし、これ以上の理由も、これ以下の理由もない。涼太もこんな女嫌でしょ??」
「……嫌っス」

聞き分けがない子どものように駄々をこねる彼を見ていると気持ちが揺らぐ。離れなきゃいけない、離れなきゃいけないんだ。離れないと、お互いに壊れてしまう。
壊してしまうのが怖くて、崩れていく彼を見たくなくて、私はただ、逃げたいだけの弱虫なんだ。ねぇ、見逃してよ。

もう……私を解放して……。

「もう、いいでしょ??リスカする人が貴方の彼女なんて、周りからどんな目で見られてるか、知らないでしょ??良いように見られてるとでも思う??」
「やめ…「私のせいで、貴方の評価が下がるのは嫌なの。お願い、分かって??」ッ……」

黙り混む彼。俯いて、顔がはっきり見えない。ただ分かるのは、彼が拳を力ある限り握りしめ、ふるふる、と震えているということだけ。きっと彼なら、分かってくれると思ってた。それが、まさかの大間違いだった。

「いつもだ……名無しっちは、いつも周りの目ばかり気にして……俺の気持ちは考えてくれないっス!!なんで?!そんなに周りが気になるんスか?!」
「なっ……」

目をキッと睨みをきかせ、私に問い詰めてくる。その質問一つ一つが心にグサリと突き刺さり、真っ赤な涙を心から流れ始めた。

「俺の気持ちはどうなるんスか!!名無しっちばかり、自分勝手なんスよ!!」
「ッ……」
「俺はいつも名無しっちのことを考えているのに、俺ばっかりで、こんなんじゃ一方的な恋じゃないスか!!」
「な、何よ!!そんなこと言うなら涼太もじゃん!!何にも知らないくせに、分かったような口で言わないでよッ」
「だったら俺は……、名無しっちにとって、どんな存在なんスか……。そんなに頼りなかったっスか?」
「ちがッ……」
「名無しっちは、俺のこと信じてなかったんスね」

あぁ、結局、傷つけて壊したのは私なんだ。壊れていたのは……私だった。

「…………あぁ、そうだね。」

もういいやって。

「君の言う通りだ」

何かが割れた気がした。

「私は、独りなんだよ。人を傷つけ、逃げていく運名にあるんだよ。だから、もういいでしょ。逃がしてよ」

今度は私が、悲痛の叫びのように声を出した。絞り出した。カッターで傷つけた手首を携え、私は独り歩くんだ。

「尚更嫌っスね」
「……はぁ??」

突然彼はカッターを取りだし、自分の腕に十字型に切り傷を入れた。少し痛みに顔を歪め、つーと流れる鮮血を彼は舌ですくいとった。

「な、何を」
「ほら、これで一緒」

にこりと黒いオーラを纏う笑顔を私に向ける。ぞくりと背筋が凍る気がした。

「これで、名無しっちは逃げれないっスよ?一応モデルなんで、身体に傷なんて……ね??」
「卑怯だよ!!」
「そんなの、名無しっちもっスよ。自分だけ逃げようなんて、させないっスよ。名無しっちは俺だけのモンなんスから」

肩を揺らしながら、けたけたと笑い出す。あぁ、この人も狂ってしまったのね。私も、同じだよ。



後日の彼が出ていた雑誌にこんなことが書かれていた。



"黄瀬くん、手首に十字型の切り傷があるって聞いたけど本当??"
『本当っスよ!』
"まさか……リ○カ?"
『違うっス(笑)この傷は、とある女の子と一生一緒だと言う"証"っスよ!!』
"一生一緒……?と、言うと?"
『俺も彼女も、お互いにお互いを必要として、離れられない関係なんっス♪』


記者によると、とても嬉しそうに、黒い笑みを浮かべていたそうだ。

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