カルトレディと鉄の処女

□カルトレディと非常識
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桜の花が銘々に咲き乱れている。全ての木々が激しく自己主張するように、小さな花弁をその枝いっぱいに開いて、落ちた花さえ咲いているように綺麗だ。

大学の門の周辺は桜の木がいっぱいだった。道路の方にも道なりに並んでいるし、構内のいたるところに木々がある。
花びらを掻い潜りながら、俺は昼過ぎの大学構内を歩いていた。

目的はひとつ。
とあるサークルに入るため。
入部届を直に手に握って歩く。昼飯はもう済ませた。わくわくとしながら歩く。かなりマニアックな活動のサークルだけど、入学時にこのサークルがあると知り、絶対入ろうと決めていた。
本当は友人と入りたかったが、全力で拒否された。詰まんないやつだ。

「あ。光輝?」

不意に名前を呼ばれる。
光輝。古賀光輝。俺の名前だ。
中庭の自動販売機コーナーを通り過ぎた所だった。名前を呼んだ人物は、右手にカフェオレの紙パックを握って近付いてくる。

「静流。」

種島静流。俺の友達というか、幼馴染というか、腐れ縁というか。そんなところだ。
茶色のセットされた髪。縁のない眼鏡。恐らく流行をチェックして選んだであろう雑誌に載ってそうな服。眼鏡以外は大学デビューだと思う。多分。

「どこ行くんだ?そっちの棟お前の学部じゃないだろ?」
「これこれ。これ出しに行くの。」

手に握った紙をパタパタと揺らしてみせる。その瞬間、静流の表情が強張った。

「お前…本気で入るの?それ。」

なんだかいやそうな感じに言う。静流は俺がこのサークルに誘ったのに断った張本人だ。

「入るさ。ちなみにこっちはお前の入部届。」
「ああ俺の…っておい!」

今までパーカーに突っ込んでいた左手を出し、もう一枚の用紙を見せた。
勝手に書いた静流の分だ。

「ふざけんな!なに俺まで入れようとしてんだよ!」
「いいじゃねえかよ。こんなに頼んでんのに。」
「いいわけないだろ!」

静流が俺から入部届を奪い取る。

「オカルトサークルなんか入らねえよ!」

入ればいいのに。
俺はオカルトサークルに入るつもりだった。
なぜならお化けの類が大好きだからだ。
有名どころの怖い話ならだいたい知ってるし、テレビでも漫画でもそう言うの見るの好きだし、写真を撮ったら必ず心霊写真がないかチェックする程だ。

俺と対象に静流はそう言うの全般駄目。
こいつは子供の頃から霊感が強かったので、それを知った俺が色々といじり倒したせいだけど。

「うわ!本当に記入してるし!」
「当たり前だろ。記入しないと入れないんだから。」
「俺は入らないよ!」

そう言うと静流は紙をグシャグシャに丸めてジーンズのポケットに押し込んだ。

「うわー人の物の扱いとして酷いわー。」
「煩い没収!」
「まあこんな事もあろうかともう一枚ある訳だが。」
「お前馬鹿なの!?」

パーカーからもう一枚出した紙を素早くまた没収される。

「コピーとかじゃないし!直筆だし!お前本当に馬鹿なの!?」
「失礼な。…じゃ、俺もう行くわ。」

ひらひらと手を振ってまた歩き出す。そこでがっしりと肩を掴まれた。

「…もう無いだろうな?」

ふっ。勘のいいやつ。

「さあな。」
「俺も付き添う。」
「入部する気ないのに?冷やかし?」
「煩い。いいから行くぞ。」
「はいはい。」

ふらふら歩く俺の後ろから不機嫌そうな静流が着いて来る。
作戦その二。部員の人たちと上手く丸め込んで入部させる作戦は成功するかな。
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