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□戦パラ 小説
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相談B
「あぁ、お客さん、この前化粧品買ってくれはった人やろ?えらいべっぴんさんやったさかい、よう覚えてまっせ。」
すると、女はにっこりと微笑む。
「覚えていてくださって嬉しいわ。…ところで、この子に見覚えある?」
女…もとい、甲斐姫の後ろから、秀秋が姿を現す。
「あ、坊っちゃんさっきの…。…やのうて、ええっと…。」
甲斐姫はやっぱりといった顔で溜め息をつく。
「秀秋くん、秀家さんのお屋敷覗いてたのって、この人?」
秀秋は男の顔をじっと見つめる。
「うん、この人だ。間違いないよ。」
秀秋は首を縦に振る。
「秀秋…。…もしや、太閤殿下のご養子だった、小早川秀秋様で?」
「うん、そうだよ。それで、こっちが甲斐姫。…それより、何で秀家の屋敷を覗いてたの?」
男は質問には答えず、2人に頭を下げた。
「名のあるお武家様とはつゆ知らず、ご無礼を致しました。どうか、お許しを。」
「そんなこと言ってるんじゃないわ。きちんと質問に答えなさい。」
甲斐姫の声音が怒気をはらむ。
「…やっぱり、ごまかしは効かんようやな。」
男は頭を上げ、困ったように笑う。
「…小早川様、八郎坊っちゃ…宇喜多様のこと、どのように思われますか?」
思いもよらぬ質問に戸惑ったが、秀秋は一言一言噛み締めるように答えた。
「…僕の、自慢の、兄上だよ。今は敵同士になってしまったけど、それでも、僕の大好きな兄上だ。」
それを聞くと、男は幸せそうに微笑む。
「さようで…。…お二方に会ったのも何かの縁。いくつか、質問してもよろしゅうございますか?」
「…ええ、いいわよ。」
いつの間にか2人はこの男の雰囲気に飲まれ、男を疑う気持ちはなくなっていた。
「…石田三成様は、お元気でいらっしゃいますでしょうか?大谷吉継様、福島正則様は?それと…加藤清正…様、は?」
「ええ、皆元気にしてるわ。…もちろん、秀家さんもね。」
男は、はっと2人の顔を見つめる。
「なんだかよくわからないけど、秀家さんのお知り合いなんでしょ?…覗いてたのも、悪気があった訳じゃないって信じるわ。」
「…ありがとう、ございます。」
男は再び頭を下げる。
「お礼なんていいのよ。それより、最後にあなたの名前、聞かせてくれる?」
男は顔を上げ、2人ににっこりと笑いかける。
「わての名前は、弥九郎。堺の薬屋、小西弥九郎言います。今は諸国を旅して、薬や化粧品を売ってます。…明日には、この町を出ます。たくさんのええ思い出が出来て、もう思い残すことはない。…小早川様に甲斐姫様、ほんま、おおきに。」
小西弥九郎と名乗った男は、次第に涙を浮かべながらそう言った。
「最後に、お願いがあります。どうかわてのこと、八郎坊っちゃん…宇喜多様には、言わんといてください。お願いします。」
「…わかったわ。秀家さんには絶対に言わない。ね、秀秋くん?」
「うん、僕も、絶対に言わない。だから、安心して。」
小西弥九郎は2人の言葉に安堵の表情を浮かべた。
そして、2人は小西弥九郎とわかれた。