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□その他
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〇誕生日プレゼント(幽遊白書)

「螢子さんの誕生日プレゼントを買いに行きたい?何で俺にそんな相談を…」

 蔵馬は幽助に突然呼び出され、何事かと思い来てみたら会ったとたんに手を合わせて拝まれた。

「頼む蔵馬、一緒に選んでくれ!」

「いや、他の奴らに頼めばいいでしょう、桑原くんとか飛影とか…」

「…あいつらにこんなこと頼めると思うか?」

「……悪かった」

 桑原なら意外に趣味はいいかもしれないが、幽助としては意地でも頼みたくない相手だろう。そして飛影は…言わずもがなである。

「いや、でも俺にもそんなのは…」

 蔵馬が「わからない」と言おうとしたその時、後ろから幽助と一緒に誰かに抱きつかれた。

「おやおや、面白い話してるじゃないかー。女の子の好きなものは、女の子に聞くのが一番だよ☆」

「げえっぼたん…。何でお前がここに…」

「『げえっ』とはなんだい『げえっ』とは。男二人で行くより女の子もいた方が華があっていいと思わないかい?」

 幽助はバツが悪そうにふて腐れた顔をし、蔵馬はやれやれといった顔で苦笑した。

「まあ、いいんじゃないですか。男二人で行くのも何かあれでしょう?」

「…仕方ねえ、諦めるか」

「ちょっと幽助、せっかく私が一緒に行ってあげるって言ってるのにその態度はないんじゃないかい?」

「うるせえ、おめーにばれるとあっという間に他の奴らに広まるだろうが!」

「大丈夫だよ、知られて困ることじゃないだろう?」

 ぼたんが満面の笑みで言った言葉に怒る気力も失せた幽助は、結局蔵馬、そしてぼたんを連れて螢子へのプレゼントを買いに行くこととなった。

**********

「こ、ここに入んのか?」

 ぼたんがおすすめの店があると言って二人を連れてきた場所は、可愛らしいネックレスやブレスレットが並ぶアクセサリーショップであ
る。

「へえ、ぼたんさんけっこうおしゃれなお店知ってるじゃないですか」

「ふふん。まあね。私もちょっと人間界のおしゃれを勉強しようと思って」

「だ、誰がこんな店入れるか…!」

 何のためらいもなく店に入ろうとするぼたんと蔵馬に対し、幽助はこれまで全く馴染みがなかった場所だけにすぐさま回れ右して帰ろうとする。

 すると幽助は蔵馬とぼたんにむんずと服の襟を掴まれた。

「螢子さんにプレゼントを買うんでしょ、ゆ・う・す・け・くん?」

「今更帰ろうだなんて、いつもの威勢の良さはどうしたんだい、幽助?」

二人の凄味のある笑顔に負け、幽助はすごすご
とアクセサリーショップへと入って行った。

**********

「ちくしょう、目がチカチカしてきやがった、何だって俺がこんなところに…」

 初めて入るアクセサリーショップに幽助は心の底から辟易したような顔をしていたが、そんな幽助の様子などお構いなしに蔵馬とぼたんはアクセサリーを選んでいる。

「このネックレスなんかどうだい?螢子ちゃんにぴったりだと思うんだけど」

「あー、うん、いいかもなー」

「こっちのブレスレットも可愛いですね。螢子さんにはこういうのがよく似合いそうだ」

「あー、そうだな、それもいいなー」

 アクセサリーショップに入っただけでぐったりしている幽助は、二人の言葉に適当に生返事を返しつつ、ぼんやりと並んでいる商品を見回してみた。

「もうっ、あんたが言い出したんだよ幽助、もっときちんと真面目に考えな!」

「そうですよ幽助、プレゼント渡すのはあなたなんですから」

「…ぼたんはともかく、蔵馬、何でおまえこんな店入んの慣れてんだよ…」

 すると蔵馬は恥ずかしそうに軽く俯いた。
「…昔、亡くなった父さんと母さんへの結婚記念日のプレゼントをこんな感じの店に買いに行ったことがあって、それで母さんすごく喜んでくれて、その、今でもたまに母さんへのプレゼントにアクセサリーを買うことがあって、そしたらいつも本当に嬉しそうに笑ってくれて…」

蔵馬はそこまで言うと口を閉ざし、真っ赤になった顔を幽助から背けた。

「蔵馬、おまえやっぱりいいやt…」

「こ、こんなのもいいんじゃないですか?」

幽助が蔵馬を褒めようとすると、蔵馬はそれを途中で遮り、目に入った商品を勧めてきた。

「うーん、それもいいな…。ちくしょう、いっぱいありすぎてどれがいいかわかんねえ…」

 そう言って頭を抱えた幽助が、ふと頭を上げると、目の前にあるアクセサリーが飛び込んできた。

「なあ、蔵馬、ぼたん。こんなのはどうだ?」

「あ、可愛い!これなら螢子ちゃんも喜んでくれるよー」

「本当だ。幽助、意外にセンスありますね」

「意外は余計だ!」

 他にもいろいろ見てみたが、幽助が見つけたものが一番だと結論になった。

「幽助、螢子さん、喜んでくれるといいですね」

「そうそう。頑張りなよ、幽助」

「う、うるせえ!」

 そう言ってからかう蔵馬とぼたんに、幽助は真っ赤になって言葉を返す。そして恥ずかしそうに微笑み、ぽつりと呟いた。

「喜んでくれるかな、あいつ…」

**********

 そして、螢子の誕生日当日。

 螢子と待ち合わせをした幽助は、緊張でカチ
コチになりながら螢子を待っていた。

「幽助、お待たせ―」

待ち合わせ時間より30分前に着いてしまった幽助は、いつもよりおしゃれをし、手を振りながら走ってくる螢子の姿を見つけた。

「ごめん、待った?」

「いや、俺も今来たところだ。その、ええと、馬子にも衣装っつうか、その…な、何でもねえ」



「もうっ、幽助のバカ、螢子ちゃんがせっかくおしゃれしてきてるのにはっきり褒めなさいよ!」

「まあまあぼたんさん…」

「けっ、何だあの様は。幽助のやつ、こんな時だけへたれやがって」

「黙れ桑原、邪魔だ。聞こえたらどうする」

「んだと飛影てめえ…」

「しっ、本当に聞こえちゃうでしょ、静かに…」

「す、すみません…」

 幽助がプレゼントを渡す様子を、ぼたん、蔵馬、桑原、飛影の四人がこっそり物陰から観察している。



「何よ、いつもの服装がダサいって言いたいの?」

「い、いや、そういう訳じゃ…。その、ええと、きょ、今日のお前は一段とおしゃれで可愛い…えっと…あの…。あ、そうだ、お前今日誕生日だったよな、それで、その…これやる!」
そう言って幽助は、一つの紙袋を手渡す。

「え、幽助が私にプレゼント!?…嬉しい、開けていい?」

「か、勝手にしろ!」

 紙袋の中には可愛くラッピングされた小箱が入っており、それを開けると螢子は好きな青をあしらったネックレスが出てきた。

「可愛い…。これ、幽助が選んでくれたの?私のために?」

「ああ、一応、ぼたんと蔵馬と一緒に行ったんだが、これがお前に…その、一番似合うと思って…」

幽助は顔を真っ赤にして照れているが、螢子は心の底から喜んでいる。

「ねえ、幽助。このネックレス、今から着けたいんだけど、着けてくれない?」

「はっ?何で俺が…。し、仕方ねえな」
そう言うと幽助はネックレスを螢子の首に着けた。自然、顔の距離も近くなる。

「……………」
「……………」

「あ、あのね幽助…」

「え、えっと、そうだ、お前映画見たいって言ってただろう、今から行こうぜ!」

「へっ?ちょ、ちょっと待ってよ幽助!」

螢子は少し期待していただけに、落胆の色を隠せなかった。

 すると幽助は、照れながらも、さっと手を差し出した。

「映画館までけっこうあるだろ。…俺の手、離すんじゃねーぞ」

「うん!!!」

螢子は、幽助のその手をぎゅっと握り、二人は手を繋いで歩き出した。




「幽助、お前漢じゃねえか、螢子ちゃんを幸せにしてやるんだぞ…」

「泣くな桑原、暑苦しい」

「んだと飛影てめえ!」

「はいはい、喧嘩しないんだよ。それにしても、幽助、すごい進歩だねえ」

「ですね…。で、今からどうするんです?」

「決まってるだろ、二人のデートを終わりまで観察するのさ☆」

「ええっ、それはさすがに…」

「ようし、幽助がきちんと螢子ちゃんと楽しんでるか、この俺が見届けてやらあ!幽助、螢子ちゃんを泣かせたりしたら承知しねえぞ!」

「…どうする、飛影?」

「このままこいつら放っとくのもあれだし、付き合ってやるしかねえな」

「…そうだな。俺たちがいないとこの二人なら暴走しかねない」


 蔵馬の視線の先には、気恥ずかしそうに手を繋いで映画館に向かう幽助と螢子の姿が見える。

「まあ、幽助たちのことは、放っておいてもいい気がするけどな」

 そう言った蔵馬は、二人の後ろ姿を見ながら、穏やかな笑みを浮かべていた。
 

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