大嫌いなヒーロー
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「ただいまー」
そう言い、カチャンと金属音を響かせて玄関のドアを開ける。
家の奥からは、おかえり〜と気の抜けるお母さんの声がしてきた。
玄関の棚の上に置いてある家族写真を苦々しく見つめながら、最近買ってもらったけどもう少し泥で汚れてしまっている靴を脱ぎ、家の中へと上がる。
服、着替えたいな、
転んで汚れが染み付いたワンピースを見た。
だけど、とりあえずそれはあとでにして、買ったものとかをリビングに持っていこうと思い、お母さんがいると思われるリビングへと繋がる扉を開く。
するとそこには、
「・・・・・・・・、?」
散乱した大量の写真たちと、その中心で、それは楽しそうに目を輝かせる私の母上様がいた。
「何やってるの?」
いろいろ関わりたくなかったが、放っといて、勝手にさせときたかったが、リビングに入る必要のある私は、とりあえず声を掛けてみることにした。
お楽しみ中ごめんなさいね。
「おかえりー。・・・・あ、なまえまた転んだ?」
先ほども聞いた言葉をもう一回言いつつ質問に答えないお母さん。
「うん、ごめんね。転んじゃった。
何してるの?」
しつこくまた聞いてやろう。
「何、って、写真見てるんだけど、見てわかんない?」
「わかるよ・・・。」
どんだけ私を馬鹿にしているんだ、この人は。
「なんで、いきなり写真こんなにも広げて見てるの?」
「ふふ、いいじゃない。
今見返すと、結構楽しいわよ。」
・・・・・理由になってないし。
「ほら、もりりんがどんな子かなまえにもわかった方がいいよなー、って思って。」
早く言えばいいのに。
なんでこう私を焦らさせるかな。
「写真とか残ってるんだ?」
「いっぱいあるわよ。ほら。」
「・・・・・・」
あ、まさかこれ全部ですか。
いっぱいだね。
カメラの充電大丈夫だったの?ってくらい多い。
気を取り直して。
「どの人がもりりんさんなの?」
「んー、ほぼ全部の写真に写ってるわよ。」
「え、なんで?」
「ほら、なまえめっちゃ懐いてて、ずっっっっと一緒にいたから。
なまえが写ってる写真には大体いるわよ。」
「・・・・・ふぅん。」
そこらへんにある写真を一枚ペラッと手に取ってみる。
あー・・・、この子かな?
背中に私がくっついている哀れな子を発見した。
「お母さん、この人?」
「そうそうそれそれ。何か思い出した?」
「うーん・・・。」
なんか、写真見たらその場面だけなんとなく思い出すことってあるよね。
そんなかんじ。微妙。
「もりりん君自体もなまえのことものすごい気に入っててねぇ、妹にください!って大変だったのよー。」
くすくす笑うお母さん。思い出し笑い。
しかしそれはまた変わった人だな。
「でもさー、お母さん、私思ったんだけどさー。」
「んー?なによ?」
「これさ、当時何歳?この子、もりりんさん。」
「えっと、なまえが9歳か10歳だったから、10歳か11歳かな?」
あ、一個上なんだ。
写真で見ると私の見た目とか精神年齢的なものとかが幼すぎてもっと年上に見えたけど。
まぁそれはいいんだけど、
「今何歳?」
「高3?」
「・・・・この写真見た意味あったの?」
人間は成長するんだよ?
呆れ顔の私に、あら、楽しいからいいじゃない、というお母さんの楽観的な声がかかってきた。
・・・・・・・着替えよ。