ねこ
□少年
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「あれ、今日も来てたんですか。」
「んだよ、来ちゃ悪ぃのか?」
「ふふ、そんなこと言ってませんよ。」
最近、煌帝国の城の女官寮付近に、不思議な少年が現れる。
来る時間はきまぐれ。
けれど、なぜか女官見習いの私とは遭遇率が高いようだった。
初め、寮裏で、猫と戯れているのを見たときは、不審者かと思い不安だけれど、話してみると結構おもしろい人だった。
それから、会ったらよく話すようになり、今じゃあ彼と談笑するのは、すっかり生活の1部となっていた。
高級そうな奇抜な服を着ている様子から、お金持ちのグレた次男三男あたりだと思う。
けれど、そんなごちゃごちゃ考えているのが馬鹿らしくなるくらい、彼と過ごす時間は楽しかった。
名前も知らない彼と話す時間は。
「また、戦争するみたいですね。」
「そーだな。」
「お偉いさんたちは領地をこれ以上広げてどうするんでしょうね。」
もうこんなにも広大な土地があるのに。
そう独り言のように言った。
「領地が広いと強そうじゃねーか。」
ぶふーっ
彼の言った言葉に思わず吹き出してしまった。
「げほっ、あは、あははっ、そんなわけ、ないじゃあない、ですかぁっ、あははっ、げほっげほっ」
「んだと!てめぇっ」
「あはははははっ」
「黙れぇっ」
私とはかなり価値観の違う彼にいつもいつも驚かされる。
そんなことが、たまらなく楽しかった。
私は、馬鹿で、何も考えていなくて、このとき彼が呟いた言葉なんて聞いていなかった。
聞いていたら、何か、変わったかもしれないのに。
「・・・そんなわけないことくらい、俺が1番よく知ってんだよ。」
「?何か言いましたぁ?」
「なんでもねー」
そう言って、にかっと笑った彼の変化に、気づけなかった。