ねこ

□わたしとかれ
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「え・・・?」


幻聴まで聞こえるようになったのかと思い、後ろを振り向き、涙でぼやける視界を見やる。


やっぱり、彼の姿があった。




「幻覚・・・?」


「ちげぇよ。」


べち、
頭をひっぱたかれた。

痛い。



だって、浮いてるし。幻覚かと思う。


あ、マギ様だから、浮けて当然か、とやっと思い至る。

少し悲しくなった。




「んだよ、折角俺様が会いに来てやったのに、そんなシケた顔すんな。」


「う、うん、ごめん。」



あまりにもいつも通りな彼に、やっぱり人違いだったのかも、という希望も芽生えた。



・・・でもやっぱり彼は浮いていた。




「あ、あの、あなたは、神官様、なんですか?」


諦め切れなくて、聞いてみる。

彼はおそらく、神官様、という単語に瞬間眉をひそめた。
しかしすぐにニヤッと笑った。


「?」


「おいおい、神官様、だなんて他人行儀な呼び方やめようぜー、ほら、さっきは何て言ってたんだー?」


ばっ
顔が赤くなる


「えと、あれは、その、」


言葉がいつものように上手く出てこない。





「神官様、っていう呼び方は、あんまり好きじゃねぇからさ。」


さりげなく言ったようにみえて、彼の顔は、寂しげだった。


あぁ、何か、何かいわなくちゃ___














「好き。」



「は?」

え?

あれ、なんか口からぽろっと出た。

なんで?

どうした私、



「あ、間違えました。」


「あ、そーか。」



「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」


「・・・っておい、」

「・・・なんでしょうか。」


「今の何?」

「口が勝手に言いました。
まったく困ったお口さんですね。」


おそらく真っ赤であろう私の言葉に、説得力は微塵も感じられなかった。





「へー、ふーん、そーかぁー、おまえが俺をねぇ・・・」


ニヤニヤしながら彼が何か言ってくる。

もう死にたい。
私の口本当にどうしちゃったんだよ。










「俺も好きだぜ。」



「え?」


「え?じゃねぇよ、喜べよ、そこは。」



口調は生意気だったけど、彼も私と同じようにに、真っ赤だ。



「・・・・・・・」

じぃっと彼を見る。



「・・・・・じゃあなっ!!!!」


あ、恥ずかしくて逃げた?

・・・・可愛いなぁ。


なんてことを思ってしまった自分は、やっぱり彼が好きなんだと自覚する。



「また来てやるからな!」



最後に、彼がそう言ったことが、とてつもなく、嬉しかった。
少し、照れくさくはあったけれど。






猫のようにみつあみを揺らし、屋根を軽く跳び、王宮の中心に向かっていく彼の後ろ姿を見て、


次はお菓子でも用意しておこうと思った。
 

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