短編
□春歌さまへ
1ページ/1ページ
「アリババくん!」
私はいつも、精一杯の勇気を出して、鍛錬が終わったであろう少年、アリババくんに声をかける。
「おー、なんだ?」
彼の目が、こちらを向いて、胸が高鳴った。
「えへへ、なんとっ、今日はサンドイッチを作って来ましたー!」
そんな不純な心が、アリババくんに伝わらないよう、明るく元気を装う。
「おお!ほんとか!やったっ!!」
そんな私に、アリババくんは、満面の笑顔を見せてくれた。
私は、私に向けてくれるこの笑顔が見たくて、見たくて、まるで彼の恋人であるかのように、毎日修行後の彼に差し入れをするのだ。
「修行お疲れ様〜。」
段々速くなっていく鼓動の音を隠して、私はアリババくんに笑いかける。
「おぅ!いつもありがとな!」
「全然大したことないよー、アリババくんがいつも頑張ってるところ見てると、私も何かお手伝いがしたくて。」
うわぁ、私、なんて真っ赤な嘘を吐くんだろう。
自分の言った言葉に押し潰されそうになる。
だけど、
「・・・・・おまえ、良いやつだなぁ。」
あなたがそう言ってくれるなら、私は、私のこんなに醜い心を許せる気が、するんだ。
なんて。
「うわぁーっ、うめぇ〜!!」
「気に入ってもらえて良かった。」
「おぅ!すげぇ気に入った!!」
ああ、もう本当にアリババくんは、私の心を掴む、天才なんだから。
でもね、
「また明日もなんか作ってきてくれよなっ!」
全部食べ終わって、そう輝かんばかりの笑顔で言うアリババくんに、私は小さく微笑った。
でもね、私だって、アリババくんの心、掴めるんだよ?
ほら、まずは、胃袋から、ってね。