短編

□君のキライな私
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ここは、ジンドリア、人々が皆、笑って暮らす、夢のような楽園。




笑えないのが、私だけのようで、居心地は、あまり良くない。





「・・・・・まだ、いたんですか。」



不意に後ろの上の方からかかった声に、目線を上にやりながら振り返る。




「誰かと思えばマスルール君じゃあないか。
こんにちは。」


抑揚がほとんど、いや、全くと言ってもいいほど無い声質で、挨拶をする。



「・・・こんにちは。

相変わらずつまんなそうっすね。」



「そうかい?
君にはわからないだけで、これはこれで、私は私で、なかなかに今は楽しいけどね。」




齢14歳にして、さまざまな悪評が、私にはある。

無機質な声だと、よく言われる、抑揚のない、感情の無い声。

鉄仮面とかよく言われる、変化の無い、表情の無い顔。

機械のようだと、心が無いと、よく言われる、私。


さらにそのせいで、何を言っても皮肉に聞こえたり、人付き合いが苦手で、強がって失礼なことを言ったりしてしまう。


好きで感情が、表情が、心が無いわけではないのだけれど。

そう否定しようにも、それらの評価は、周りから見た、私なのだから、否定したところで、変わりない。


そんな、嫌なことを言われても嫌な顔ひとつしないからこそ、余計に機械とか思われてるみたいだけれど。


それも私だ。




「いつになったら、笑うんですか?」


「うーん、それは私にもわからないなぁ。」



私は生まれつき、笑えなかった。

それどころか、怒ることも、悲しむことも、顔で、声で、表せない。

一応小さいとはいえ、一国の姫たるものがこれでは困る、とシンドリアまで送り出された。
自分の国にはない、豊かさや楽しみとかに触れれば、感情が出せるようになるかもしれない、ということらしい。

まぁ所謂、厄介払いというやつだ。

父母、つまり国王と妃は、私がこんなのな原因は自分に、自国にあると思い、自己嫌悪でストレスが溜まっているのは、誰が見ても明らかだった。
それと、不気味な子どもを無理に愛そうとするストレスもあったのだろう。


きっと今頃は明るく楽しく暮らしていることだろう。
ちゃんちゃん。


つまり厄介者な私は笑えないと国に帰れないわけだ。

なんとも世間は厳しい。
いや、厳しいのは世間体か。

まったく、自分の不甲斐無さに、溜息しか出ない。



そして、これだ。


「あ、飯、外で食うんなら、着いてきます。」


「ああ、ありがとう。助かるよ。
実はまだ地理を覚えていなくてね。」



「いえ、別に。」



「・・・・・・。」



マスルール、君。

大きな体、鋭い眼光、なんでも戦闘民族の末裔だとか。

どうやら彼は私のことが嫌いらしい。


先程からの会話でもわかるように、まだいるのかとか、明らか私に早く出てって欲しがっているよなぁ。

いつ笑うとか、さっさと笑って帰れってことだよね。

ごめんなさい、まだ当分帰れません。

というか最近会ったばっかの人に嫌われてる状況で、生まれて初めて笑えるわけがありません。


最初見たときは、無表情で、無口そうな人で、お、仲間!?とか思ったけど、現実は甘くなかった。




・・・・・・とりあえず、今、食事どころに、案内してもらって、いるのだが、できれば歩幅、を、ほんの、少しだけ、小さくして、もらえる、と、ありが、たい・・・・・・・

息も絶え絶え。
 

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