短編
□幼い約束
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あのころは、彼女の言っている意味が、理解できなかった。
いや、今でもさっぱりわからないのだけど。
まず、その彼女ですら、よく覚えていない。
覚えているのは、俺が幼いころ好きだったと思われるその彼女との、最後の会話だけだ。
彼女のことは何ひとつ覚えていないのに、その会話だけは、一言一句違わずに全て覚えているというのだから、不思議な話だ。
その幼いころの記憶が、ここ数年、やけに気になる。
忘れたころ、だったら、そろそろ来るんじゃあないか。
こんな夢のようなことを、つい考えてしまうのだ。
もしかしたら、と、ありえない。
期待と不安が交錯して、なんとももやもやする状態が続いている。
何度も、何度も記憶の中を掘り返すのだが、一向に”彼女”のことは、出てこない。
どのアルバムを見ても、”彼女”はいない。
”彼女”という幻想につきまとわれて、頭がぐるぐると、おかしくなりそうだった。
ただ、バレーボールをしているときと、他の女の子と遊んでいる時は、そのことを忘れることができた。
けど最近は女の子と遊んだ後の、彼女に対する罪悪感が、気持ち悪い。
それでも、この呪縛から、離れようと、また女の子に絡む。
泥沼、だった。