短編
□影山(甘)
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影山にチョコを渡す
今日も、大好きな、あの人が来た。
「・・・・・・はよ。」
そう無愛想に言って、さっきまで空となっていたわたしの隣の席に鞄を置くのは、影山飛雄。
バレー部、セッター、中学のときは王様とか呼ばれてた、好きなことはバレー、誕生日は12月22日、好きな食べ物はポークカレー温玉のせ、意外と動物が好き。
バレーにすごく一生懸命で、一途で、実は優しい、
わたしの、好きな人。
そんな人に挨拶するため、私は今日も、小さく息を吸い込む。
「・・・・・お、おはよう、影山くん、今日も悪逆非道な見てるだけで心臓に悪い顔だね。」
あぁ、やっちゃった・・・・・。
影山くんの額に青筋が立つのが見ないでもわかる。
「みょうじ、おまえ、いつも何なんだ!
俺がなんかしたか!?してねぇだろ!」
「えと、その、もう存在が怖いっていうか・・・・。」
「意味わかんねぇよ!」
そうですよね、わたしも意味わかりません。ごめんなさい。
そう、わたしは、好きな人に素直に気持ちを伝えることができないっていうか、思っていることと真逆のことを言ってしまう、という悪癖があるのだ。
好きな人の前では、内気なくせに毒舌なキャラになる。これまで好きな人に嫌われたことしかない。
さっきも本当は、「今日もクールでかっこいいね。」って言いたかったのに。
自分でも、どうしたらいいものか、わからない。
好きなのに、好きなのに、好きなのに。
◇◆◇
2月14日。バレンタインデー。
さて、どうしたものだろう。
わたしはまんまと製菓会社の思惑にはまってしまった。
・・・・・こんなチョコ作ったって、どうやって渡したらいいんだろう。
出来心で作ってしまった、チョコレート。
どうしたものか、教室で頭を抱えて唸り、わたしは明らか挙動不審になっていた。
「どうしたんだ、みょうじ?」
「わひぃ!」
・・・・・・急に声をかけるものだから、思わずへんてこりんな声が出てしまった。
誰だろ、まったく。
・・・・・・・・・って影山くんだー!!!
「あ、かげ、影、影山、くっ・・・・・」
「おまえ、ほんとにどうした?なんか変だぞ?」
「うぁ、えと、あの、・・・っ
これ、あげる!」
「は?なんだこれ?・・・・あぁ、チョコか。」
い、勢いで渡してしまったー!
「あ、ありがたく食べてね!」
うう、また可愛くないことを言ってしまった・・・・。
影山くんは驚いた顔をしていた。
「・・・・・・おまえに、貰えるとは思ってなかったから、正直、嬉しい。」
「え?」
「俺、みょうじに嫌われてると思ってたし、義理でも、ありがとな。」
ち、ちがう、ちがう、違う!
「ぎ、義理じゃない!」
「は?」
「それにっ、嫌いでもない!」
力を込めて言ったせいで、はぁ、はぁ、と息切れをしてしまう。
こんな教室で、なに言っちゃってんの!?わたし!
途端に、恥ずかしさがこみ上げて来た。
さらに挙動不審になるわたしに、影山くんは、
「・・・・・・・俺も、嫌いじゃない。」
そう言って、微かに笑った。