短編
□白龍・白瑛
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白龍と白瑛に夢主がチョコを贈る
今日は、バレンタインデー。
好きな人に、チョコレートを贈る日。
でも、作るだけ作って、渡す勇気のない私は、その本命チョコと、最近よくしてもらっている好きな人の姉上様に会ったら贈ろうかと思うチョコを、鞄の奥に隠し持つだけだった。
「近衛兵の皆さーん、今日もお疲れ様でーす!
今日はバレタインということで、義理チョコレートの差し入れでーす!」
近衛兵たちがいつも修練をしている、城内の広い道場に、言葉がすべて届くように、声を少し大きめにする。
近衛兵たちとはほぼ全て顔見知りだし、恥ずかしいという感情はない。
それを聞いた途端、兵士たちがわらわらと私のところへ集まりだした。
ちょっとむさ苦しい。
そして、各々、小さな包みに入れられた籠の中にあるチョコレートを貰っていく。
そんな中、ふと、ある兵士達の会話が耳に入る。
「あー、そういや今日皇族の方が視察に来るんじゃなかったっけ?」
「あ?それまじ?、俺らチョコ食ってていいんかな。」
「多分今日は、白瑛様と白龍様だから、ちょっとくらい見逃してくれんだろ。」
「お、そっか。ラッキー。」
何気ない兵士達の会話に、どく、と胸が鳴る。
白龍皇子が、ここに、来る?
私が恋してやまない、白龍皇子が。
・・・・・・・どうしよう、作ったチョコは、今も持っている。
渡しても、いいのだろうか。
今度は、期待と不安が入り混じり、鼓動が速くなっていく。
ガララ、と扉を開く音がする。
どんどん鼓動は早くなる。
「白瑛様、白龍様、お疲れ様です!」
兵士の慌てて返事をする声も、どこかへと抜けていく。
「・・・・・・おまえたち、何をやっているんだ?」
白龍様の良く通る声だけ、耳に残る。
頭が、はたらかない。
「あら、チョコレート食べているの?
誰かからの差し入れですか?」
白瑛様のその声で、はっ、と我に返った。
「あ、わ、私です。」
「・・・・なまえちゃんだったのね!」
突然の白瑛様の目の輝きように、びく、と体が反応してしまった。
「すみません、勝手に配ってしまって・・・。」
「全っ然良いのよ!
・・・その代わり、私もひとつ、貰ってもいいかしら?」
白瑛様が少し不安そうに聞く。
なんだか、その様子がちょっと可愛く見えてしまった。
「・・・・白瑛様には、もっと別な物がありますから。」
そう言って、用意していたチョコを渡す。
すると、白瑛様は、美しい瞳を、まんまる見開いた。
「・・・私のために用意してくれたの?」
「はい。」
「なまえちゃん!」
「!?」
そう言うなり、白瑛様は、私をぎゅーっ、と抱きしめてきた。
びっくりした。
けど、こんなにも喜んでくれたことが、すごく嬉しかった。
そんな私たちを、まわりは微笑ましそうに見ている。
うーん、ちょっと恥ずかしいかも。
ふ、と白龍様が目に入る。なにやら複雑そうな顔をしている。
どうかしたのだろうか?
私の視線に気付いたのか、白瑛様がニヤニヤし始める。
なんなんだろう。
「白龍、羨ましいのね?」
え?
うそ、白龍様が、そんなこと思うわけ、
「・・・・なっ、姉上何を言ってるいるのですか!」
・・・・・ですよね。
でも、チョコ、渡していいかなぁ。
・・・・・いい、よね。白瑛様喜んでくださったし。
す、と白瑛様の腕から抜ける。
白瑛様が残念そうな表情になった。
鞄から、一番大切なチョコを出す。
そして、今日一番の、勇気を振り絞る。
「・・・・白龍様、チョコ、貰ってくださいませんか?」
そう言うと、白龍様は驚いた顔をした。
・・・・・やっぱり、迷惑だっただろうか。
後悔で頭の中が埋め尽くされる。
ごめんなさい、と言って、チョコレートをさげようとした瞬間。
「・・・・・・・ありがとう。」
白龍皇子は、私のチョコを、受け取った。
嬉しくて、嬉しくて、なきそうなった。
心なしか、白龍皇子の顔も、赤かったかも、なんて。
◇◆◇
「あら、白龍の方のチョコのが少し大きいし、なんだか気合が入ってるわね。」
「・・・・・・・姉上には、あげませんよ。」