短編

□一番目の女
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※ゆるい死ネタあります※
















彼は、いつも、夜を纏う。


そう思うのは、彼が私の元へ訪れてくるのが、いつも夜で、そして、去っていくのも、日が昇らないうちだから、なのかもしれない。






「・・・・・・煙草、やめたら?」


「・・・んだよ、いきなり。」



私が起きていると思わなかったのだろう、一瞬ためらって、突然の私の問いかけに、私の目の前で煙草をふかす男、カシムは、あからさまに嫌そうな顔をする。

そんな顔、長い付き合いの私にはもう、なれっこだった。



「なんか、体に悪そうだなぁ、って、思って。」


「・・・俺の体のことなんて、俺が決めるさ。」




あ、また。



カシムは、最近、会話の途中とかに突然、ふ、と遠い目をすることがある。

私を見ているのに、見ていないような、そんな目。

私は、そんな目をするカシムを見るのが、嫌いだった。





「ねぇっ、次はいつ来てくれる?」


憂いを振り切るかのように、明るく声をかける。

次のこと、未来のことを。



「次、ねぇ・・・。」


びく、彼のその言葉に、恐ろしさが、隠せない。




だって、私は、彼が来ないと、人間に、なれないのだから。





「・・・そんな顔すんなよ、近いうちに、また来る。」


「・・・ほんとう?」


「おう、そんで、金つくって、おまえを買いに来てやるよ。」


「・・・・・うん。」





わたしは、情婦だ。

私は、カシムの、女だ。


カシムには、他にもたくさんの女がいて、そのどれにも、私と同じ行為をしているのだと、わかる。

それでも、私には、カシムが、特別だった。


口から出た、ただの戯言だと、わかっているけれど、早く、早く、いつか、いつか、私を、買って、あなたのものにして。

そんな願いが、収まらない。




「霧の団は、順調?」


そう言うと、カシムは驚いた顔をする。


「なんだ、知ってたのか。」


「ちょびっとね。」


うそ、前に霧の団のメンバーの客が来て、全部教えてもらった。



「ま、他の奴らには、内緒にしていてくれよ。」



秘密、カシムの人差し指が、私の口元に当てられ、柄にもなく、ときめいてしまった。

でも、他の奴ら、という言葉に、不快感が生まれる。


カシムは、他の奴ら、にもこういうことを、するのだろうか。




「霧の団の活動、終わったら、来てくれる?」


「あぁ、来る。」


そう言うカシムの瞳には、絶対、という意思があった。



「・・・・・他の女の子のところにも、行く?」



カシムは、少し、目を細めた。


「・・・・・・・・ああ、行く。」



知ってたけど、やっぱり少し嫌だ。

この後も、行くのかもしれない。


カシムの本当の言葉が嬉しくもあり、悲しくもあった。



そんなとき、カシムは何を思ったのか、腰を屈め、憂鬱な私の顔に目線を合わせた。

ちょっと驚いた。
目を見開いてしまう。


そんな私に気にも留めず、じっ、と見つめてくる。





そして、強い意志を感じさせる目で、


囁いた。




「でも、なまえが一番な。」





だから、カシムは、特別なんだ。



涙が、出そうになった。






◇◆◇




どれくらいの時が過ぎただろうか。


カシムとの会話は、結局それが最後だった。


あの日、私がいつになく饒舌だったのも、何かを感じていたからなのかもしれない。


霧の団が、壊滅したと、どこかで聞いた。

国を治める人が変わったと、どこかで聞いた。




それでも、私は、待っている。



カシムが知ったら、笑うだろうか。

くだらない、って。



だけど、ね、

約束、したから。





「全部、終わったら、一番目に、」



必ず、会いに来てね。



ずっと、ここで、待っているから。
 

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