短編

□そうだね、叶えばいいね。
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   すきです、好きです、ずっと、ずっとすきなんです。









「白龍様、国のことで少しお話があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」





こんないつものただの事務的な連絡をするだけでも、意中の人に声をかけることに指先が震えているのを感じた。




「ん?ああ、構わない。」



白龍様が、こちらを見てくれた、私の声に応えてくださった。
いつもいつもそんなことに恍惚とする自分が気持ち悪くて仕方ない。
白龍様付きの侍女としてシンドリアまでのこのこ着いてきて、こんな南の果てでも変わらない自分に辟易する。




でも、だって、しょうがない。



そう思えるのはきっと、私が白龍様を愛しているからだ。


この感情は愛と呼ぶほかないことを私は十二分に知ってしまっているのだ。






「有難うございます。実は、」



震える体を叱咤して、必死で口を開いたときだった、





「モルジアナ殿!」







いつまでも聞いていたいと思える彼の声が聞きたくなかった単語を発して、私は耳を塞ぎたくてたまらない衝動に駆られる。





「白龍さん、こんにちは。」




そうモルジアナさんは礼儀正しく返事をした。




「こ、こんにちは!あの、今日はどちらへ?」





誰が、どうやって見ても、恋をしている瞳、上気した頬、途端に詰まり出す言葉、

ぜんぶ、モルジアナさんに向けられたものだった。

私ではなく、モルジアナさんに。




白龍様は私の言葉を遮ったのにも気付いていらっしゃらない。
もう私の姿さえ、その輝く視界からは消えていることだろう。




無性に、泣きたくなった。















白龍様のよく詰まる、しかし決して途切れない話を、はあ、とか気難しそうな顔をして忍耐強く聞くモルジアナさん。

でも、そんな二人を今の今までずっと眺めている自分も相当な忍耐強さだと思う。

いや、本当はあわよくば白龍様が気付いてまた振り返ってくださるかもしれない、という希望を捨てきれないしつこい奴なのだけれど




ともあれ、そんな優しいモルジアナさんと私は目が合った。



途端にぱあっとモルジアナさんの表情が華やぐのがありありとわかった。


モルジアナさんは私に声をかけた。




「なまえさん!二日ぶりですね、昨日はどうしてたのですか?」

「こんにちは、モルジアナさん。昨日は少し雑務がありまして。」






・・・白龍様が私にしたように、白龍様の話をさえぎって。




あ、

白龍様の口から小さく戸惑いと、悲しみと、焦りとかが混ざった声が洩れた気がしたけれど、私は全部気付かない振りをした。







モルジアナさんが私のことを友としてとても慕っているのは知っていた。

歳の近くて同姓である貴重な友人ともっと仲良くなりたい、と思っていることも知っていた。


私も、強くて、かっこよくて、かわいいモルジアナさんが大好きだ。







大好きなのだ。きっと。




だけどどうやっても私の白龍様を思う気持ちに、モルジアナさん、という存在は敵わないのだ。




モルジアナさんがいなければ、白龍様は私を見てくれた?

モルジアナさんがいなければ、白龍様は私に言葉をかけてくれた?

モルジアナさんがいなければ、白龍様は私の声に耳を傾けてくれた?





だから、答えが全て否だというのに、モルジアナさんがいなくなれば、なんて馬鹿げたことを考えるのも、当然だ。






モルジアナさんがいなければいいのに、

白龍様の前から消えちゃえばいいのに、

白龍様に嫌われる人ならばいいのに、





ああ、しかし、今モルジアナさんと談笑する私を見る白龍様の目のなんて耽美なことだろう。


私を見る、というより睨むという方が近いかしれない、嫉妬と羨望の詰まった白龍様の綺麗な瞳。



その強烈な感情に、私はいつもいつも、背筋がぞくぞくとするような快感を得ているのです。


















モルジアナさんが、いなくなればいいのに。



モルジアナさんが、明日も話しかけてくれたらいいのに。





















「なまえさんは白龍さんのことが好きなんでしたよね?」

「はい。世界で一等愛してます。」

「全力をかけて応援します。」

「えっ、いいんですか?」

「もちろんです。叶うと、いいですね。」

「・・・・・そうだね、叶えばいいね。」









絶対叶わないことなんか、最初から誰より知ってるけどね。
 

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