片恋い。

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その日、俺は、修行の一環で、城下町の警備を数人の部下を連れて行っていた。





「ふむ、平和だな。」



「そうですねー。」




辺りは本当に平和としか言いようがなかった。

修行としてはいささか退屈なくらいに。


国のためにも重要なことだとはわかってはいるのだが、こうものどかだと気が抜けてしまう。



今日は天気が良く、ぽかぽかと暖かかった。

市場は賑わっており、人々のざわめきに紛れて、かすかに子どもの笑い声が聞こえる。

道の端にはたんぽぽやスミレなどが可愛らしく咲いている。


ふと、露店で仲良さげに商品を見ている男女が目に付いた。




春、だなぁ。




思わず欠伸が漏れそうになった。






「え、おい、あれって・・・」


突然声を上げた一人の部下に少し驚いたが、すぐに顔を引き締めて対応する。




「どうした、何かあったのか?」




「あ、いや・・・たいしたことじゃないんですけど・・・」


少し答えにくそうにしている。



「?」



「あの恋人っぽい2人の男の方、」



先ほどの露店の男女を指差す。


全員そちらに目をやるが、特に怪しそうな雰囲気はない。






「青舜さんじゃあないですか?」






驚愕



まさか姉上の側近にこんなに近づいていたのにも関わらず気付かないとは。

ていうかあいつも気付けよ。

「そこじゃねーだろ!」



声に出してしまっていたようだ。

何やら部下に突っ込まれた。


何故だ。




「何がだ?」



「いやいやいや、突っ込んじゃってすみませんけど、他に思うことは無いんですか?」




「変装しているつもりなのかあれは。」



「そっちじゃなくて!
ていうか皇子も気付いてなかったでしょっ」


むぅ、
少し頬を膨らます。



「可愛いな!
・・・・じゃなくてっ」


忙しい男だな。




「青舜さんが!女の子と!いるんですよ!」


「見たら分かる。」



なにやら部下たちはじれったそうにしている。









「青舜さんに恋人ができたんですよ!」





・・・・・・・成る程、そういうことか。



「それは良かったな。」



それだけですか、と部下はがっかりしているが、良かったことではないのか?





それにしても青舜に恋人か・・・


もう一度そちらを見やる。




・・・・・・あれ、あの女の方、どこかで見たことがある、


どこだっけな・・・








その女性が青舜に笑いかけているのを見て、何故か心が痛くなった。
 

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