片恋い。
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side白龍
今日は、香桃に誘われて、香桃の作った昼食を中庭で一緒に食べることになった。
香桃というのは、最近仲良くなった紅玉義姉上付きの侍女である。
青舜と兄妹のような間柄であり、姉上が大層気に入っているため、自然と俺とも知り合った。
よく気が利き、働き者で、愛嬌がある少女だ。
初めて言葉を交わしたのは、義姉上のお茶会に招待されたときだったろうか。
あのときは軽い挨拶くらいしかしなかったが、今では見かけたらつい立ち話をしてしまうような仲だ。
ここまで親密になれたのは、あの迷子の件か。
ふと、以前見知らぬ場所で二人して迷子になったことを思い返す。
・・・・・・・思い出すと、少し、涙が滲みそうになった。
あれは辛かった。
まぁ、そんな出来事をともに乗り越えたからこそ、親しい間柄になれたのだろう。
そんな香桃と、今、一緒に座ってもぐもぐと昼食を食べている。
秋の暖かい気候、真昼のぽかぽかとした太陽、好物の詰まった弁当、
たまに聞こえる香桃の声。
あまりにものどかで、頭がぼうっとしてきてしまう。
ここにあるすべてが、この穏やかな世界を作るために存在しているようだった。
極楽、とはこういうところなのかもしれないな、とも思えた。
ああ、今、俺は、幸せだ。
意思ではない、感情が、その心を訴えた。
夢のように、ふわふわした時間のせいか、つい、
「幸せだな。」
いきなりなんの脈絡もなく、ぽつりと呟いてしまった。
言ったあと、しまった、と口をつぐんで慌てたが、
香桃がその俺の言葉に、
「・・・そうですね。私も、おんなじことを考えていました。」
そう返し、本当に幸せそうな笑顔を見せるものだから、俺は、嬉しいのか、喜ばしいのか、なんとも言えない感情がこみ上げてきて、胸が締め付けられた。
ただただ、幸福感が、溢れていく。
この幸せな空間に、俺が存在していることが、幸せだ。
こんな国でも、こんな気持ちになるのだな。
自分の大嫌いな場所なのに、そんなことは忘れてしまうほど、幸せだった。
ずっと、ここにいたい。
なにもかも忘れて、この温もりに、浸りたい。
「時間が、止まればいいのに」
確かに、自分の口からその言葉が出るのを感じて、俺は愕然とした。
これは、紛れもなく、俺の素直な感情だったからだ。
俺は、組織とあの女を倒して、この国を、壊さなければならないのに。
止まっているわけにはいかないのに、
停まったら、駄目なのに、
なんで、なんで、俺はどうして、こんなことを思ってしまったのだろう。
湧き上がる使命感も、何故かここでは怒りには変わらなくて、
このままでいい、なんてことは、ありえないのに、
しなければならないことが、あるのに、
俺は、ここにいることを、望んでは、いけないのに、
否定の言葉を心の中で並べても、意味を成さなかった。
隣の少女を見ると、また、幸せで胸がおかしくなって、
どうしたら良いのか、わからない。
俺をこんなにかきみだす、香桃は、俺にとって、何なのだろう。