台本

□小話
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光輝が頑張る宣言をした後の、とある日のこと

・・あれ?

ここは変哲もない本屋だ。

・・・この人・・

ふと気づくと、俺の隣に、見知った顔があった。

この人・・東城さん、だよな・・・

写真でしか見たことがなかったわけだが、横顔からすでに顔が整っているのがわかる。

なるほど。光輝が惚れるわけだ。

彼女は真剣な眼差しを雑誌に向けていた。
彼女の手には既に一冊、俺たちくらいの年代が読むような女性向けのファッション雑誌がある。

こんなの読むのか。意外だな。

そして彼女はもう一方の手を、


「え」
「えっ・・?」


東城さんがその真剣な表情で手に取ったのは、男向けのファッション雑誌だった。
明らかにミスマッチである。
彼女は俺の視線に気づいて、俺が何に対して驚いたのか察したらしい。


「いや、すいません、あの・・こっちの間違いじゃないですか?」


俺はその隣に置いてある、別の女性向けの雑誌を指した。
しかし、


「あ、えと、あの、こ、これは、えっと・・・!」


彼女はあたふたするだけで、その手の物を変えようとはしない。
つまり始めからそれを買おうとしていたわけだ。
けど、なぜ?


「あー・・あの、余計なことをしてしまったみたいで・・」
「い、いえ、そんな・・!こ、このような雑誌は、その、男性向け、です、から・・!」
「・・・・・・」
「・・・・・・・」


沈黙。
まぁこうなるよな。
しかし俺のことを無視してレジへ向かえばいいものを、何とも言えない表情でその場に立ったままの東城さん。
きっとどう言い訳するかでも考えているんだろう。しかし何て言ったらいいかわからない、と、こんなところか。
・・・仕方ない


「なんでそんな雑誌を?」
「え?」


とりあえず聞いてみることにした。


「い、いえ、あの、その・・」


口をもごもごさせる。
うん、確かにちょっと可愛いかもしれないな。この人。
まぁ俺のタイプではないけど。


「た、ただ、その・・」
「あ、別に無理には・・」
「だ、男性がどのようなものを好まれるのかを研究しようかと・・・」
「は?」


少しの間、理解できなかった。

男の好みの研究?


「・・・・・・」


変わってるなこの人。

と、とりあえず思った。


「あ、あの、えっと、その、べ、別に、その、」


けど、なんで男の好みなんか知ろうとしてるんだろう。
彼氏はいないはずだし。つーかいたら俺は光輝を応援したりなんかしない。
となると、

ここで、俺の頭にひとつの閃きが生まれた。

もしかしたらこの人、


「あの・・違っていたら申し訳ないんですが、」


違っているわけがないのだが、一応。


「はい?」
「貴女、東城さん?」
「え?」


きょとんとした。当たり前か。
突然、会ったばかりの人間から名前を言い当てられたら誰だって驚く。


「そ、そうですけど・・貴方は・・・」
「俺は菊川廉です。光輝の友人です」


さて、この後の発言で東城さんの中での光輝の存在度がわかるわけ、だが


「光輝・・あ、風間さんのご友人ですか!道理で・・・」


ふむ。とりあえず光輝は東城さんの中に苗字なしの名前から連想できるくらいには残っていたようだ。
よかったな光輝。

で、俺の予想は


「東城さんがそれを買おうとしてたのって・・」
「あ・・風間さんのご友人でしたらご存知でしょうか・・」


その理由が、

東城さんはちょっと困った顔をした。


「風間さんに以前助けて頂いたお礼をさせて頂こうと思って、今度お会いする予定なんです。風間さんには行かれたい場所があるようなので、お付き合いしようとは思っていますけど・・もしかしたら、何かあるかもしれないので、その、男性の好まれるお店とか・・知っておいた方が良いかと・・・」


キタ。これだ。予想、ほぼ的中。
けどこの人、よっぽど光輝に感謝してるみたいだな。普通そこまでしないだろ。ちょっとズレてるっていうか・・ある意味さすがはお嬢様、だ。


「そこまでする必要ないんじゃないですか。」


光輝相手に好みも何もない。

さらっと言ったが、東城さんはさらに困ったような顔をした。


「けど私、風間さんにはとても感謝しているんです。私の都合でお礼を今度にさせて頂いたわけですし、少しでも楽しんで頂きたいので・・・」
「・・・・・・・」


なんだこの人。
もしかして光輝にはもったいないくらい良い人なんじゃないか?
いや、もとから光輝にはもったいないくらいの人だとは思ってたけど。知ってたけど。


「友人に相談したら『気をつけた方がいい』としか言われなくて、参考にならなくて・・・頼れるものは本くらいかと・・」


いや、その友人は大切にした方がいい。
普通に考えて、いくら助けてくれたとはいえその人物が東城さん狙いでないとはいえない。始めは狙っていなくても、変わる可能性は大だ。(事実光輝は東城さん狙いだし。聞こえは悪いけど。)
俺ならむしろ止める。やめさせる。その友人は素晴らしい友人だぞ東城さん。

だが俺の立場上、光輝を応援しなければならないわけで。


「光輝は東城さんからお礼してもらえるだけで、ありがたがると思いますけど・・」
「それは・・そうかもしれませんけど。風間さんにも、始めはお礼なんていらないって言われちゃいましたし。優しい方ですよね」


そう言ってにっこりと笑う。

お!これはいいんじゃないか?
光輝、お前のことナメてたかもしれない。お前案外やるな。

よし、


「光輝は、苦いものがあんまり得意じゃないですよ。」
「え?」
「だから、例えば喫茶店とかに入るつもりなら、大人向けは避けた方がいいかもしれないです。むしろ一般大衆向けの店の方がいいと思います。」
「そ、そうなんですか・・!一般大衆向けというと、えっと、スター・・何とか、などといったお店でしょうか?」
「スターラックスね。まぁそんな感じの方がいいかもしれないですね」
「わ、わかりました!行ったことがないのでよくわかりませんが・・」
「え、なら普段は・・」
「滅多に行きませんが、特別な方と会う際は、そうですね・・」


知らない店名が耳に入ったが、場所が都心の某地区だったので、高級なんだろうということだけはわかった。


「あと・・ご飯とかも食べるつもりですか?」
「あ、えっと、時間がいつ頃になるかわかりませんが、もしかしたらそうなるかもしれません。」
「あいつは海鮮ものとか苦手なんで、シーフードの店とかは避けた方がいいと思います」
「そ、そうですか!」


ここで東城さんはネコの顔の形をしたメモを取り出して、何やら書き始めた。
え、まさか今の話メモってんのかこの人。どんだけだ。


「あ、あの!」
「はい?」


そして上げられた顔は、真剣そのものだった。


「よ、よろしければ、風間さんの好みについて、もう少しお伺いできませんか?」
「え」


俺を見る目は本当に、真剣(マジ)であった。本気で言ってる。

しかしこれは好都合だ。
光輝について知ってもらって、好感度上昇につながれば願ったり叶ったりってやつだ。


「俺でよければ、いいですよ」
「本当ですか!?」


東城さん、めっちゃ笑顔。
この人は近年稀に見る純粋さを持ってるような気がする。

そして俺は東城さんと共に、近くの店へ入ったわけ。だが。


「なぬううう!!?オレより先に葵さんとデートしただとおおおおおおお!!?!!!?!?!」
「そこかよ。」


後日こんな会話が繰り広げられるのは、まぁ、予想通りだった。



 

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