君に、恋をした (シュウ)

□君に、恋をした 1
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 今の季節は春





桜が満開の季節は終わり、今では少しずつ花びらが散ってきた




三日月の光だけが明かりのついていないこの塔を照らしていた





その塔では一人の少女が感傷に浸っていた





高い塔からでは外の世界は小さくしか見えない





もっと近くで見れたらいいのにな






いつ叶うのか、叶うかもわからない思いに





悲しげな表情をしていた





小さく深呼吸をして、いつものように少女は歌を紡ぐ





歌を歌うと気持ちが軽くなる気がするから好き





私の声が誰かに届いているといいな




ひとりなんかじゃないよね?




開いた窓からは少し冷たい風が吹いてくる




 寒いわけじゃないけどあんまり冷やすと風邪をひいてしまうかもしれないし



「そろそろ、寝ようかな」



 窓を閉めようとしてその存在に気づく



 宙に浮いている男の人に



 
 あまりの驚きに声がでない




 人が宙に浮いていることよりも




 その光景があまりにも幻想的だったから




 月の光がその人を静かに照らしていて




 月の国から来たみたい




 もしかしたら本当にそうなのかも




 そう思えるくらい、とても綺麗だった




 少し癖のある髪が風で静かに揺れる




 私はただその光景を黙って見ていた




 
 しばらくして相手が痺れを切らしたのか何か
をぼそりと話した




 「・・・・・歌」




 「え?」




 「歌ってたのってあんた?」




  少し気だるそうにそう尋ねられた




  さっき歌ってたことかな?




  私の歌が聴こえていたの?




 「そう・・・です」




 そう答えると浮いている男の人が私がいる窓の方に近づいてきた




 私はそれをただ呆然と見ていた




 小さな窓といっても、人が通り抜けられるものだったから




 男の人は少し窮屈そうだったけどそれをくぐって




 部屋の中に入ってきた

 「なぁ、あんたの歌もっと聴かせてくれよ」




 最初少し戸惑ったけど、お世話をしてくれる以外の人とあったのが




 久しぶりで、嬉しくて、ただ彼の望むままに歌いだした




 男の人はうっとりしたような表情で私の歌を聴いている




 この声は届いていたんだね




 もしこれが夢でも構わない



    

 一瞬でも、ひとりじゃないって思えるなら






 それだけで幸せだから



  

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