BLノベルコンクール

□吉田ナツ先生 「スウィート・ダーリン」
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 岡崎君ってカッコいいけどちょっと固すぎだよね、と言うクラスメートの女の子に「そこがまたいいんだよっ」と抗議して笑われたこともあった。「吉野君、ゲイじゃなかったら岡崎君よりモテるのにねえ」って、あれは誰に言われたんだっけ。
 陸がシャープな美形なら、秋都は元気な可愛い系で、吉野君は話しかけやすいよね、とよく女の子に言われる。
 顔が女の子っぽいのは昔からで、小さい頃は広告写真のカメラマンをしている父親から、「経費節減だ」とよく家のスタジオで子ども服のモデルをさせられていた。
 おまえは女の子の服もいけるから二倍お得だなー、と喜んでいた父親は、秋都が「俺、ゲイみたいなんだよね」と打ち明けたら、二週間ほど「俺が子どもの頃、女の子の格好させたりしたからだな。死んだ母さんに申し訳ない…」と落ち込んでいた。そんなわけないだろ、と思いつつ心配していたが、しばらくすると「でも秋都の顔が可愛いのは母さん譲りなわけだし、ある意味母さんのお導きかもしれんな!」と、よくわからない理屈で勝手に浮上していた。俺があんまり悩まない性格なのは父親譲りだな、と秋都は内心で思っている。
 秋都は自分がゲイだということを特別隠していない。
 わざわざ自分から言ったりはしないが、親しい友達はみんな知っているし、それで嫌な思いをしたこともない。
 吉野君、ゲイなんだって? と興味本位で聞かれることはあるが、「そうだよ」と答えると、たいていそれで話は終わった。秋都はわりと誰とでも友達になれるほうで、女友達も多い。「吉野君ってさ、女子にはほんとに全然興味ないの?」と聞かれることもあるが、秋都はそもそも恋愛感情という意味での「興味」を陸以外に持ったことがないのだ。
 いいな、とぼんやり誰かに憧れたことはあったが、のぼせ上がるような熱い感情を持ったのは、高校の入学式で「新入生代表」の陸を見た、あの瞬間が初めてだった。あの日から、ずーっと陸だけが好きなのだ。
 バスケ部のユニフォームを着てドリブルしている姿、授業中の真剣な横顔、いつもきっちりネクタイを締めた制服姿、どれもこれも見ているだけで胸がぎゅーっとするくらい好きで、毎日陸を見られて幸せだった。
 だけど陸には年上の彼女がいて、何重にも「無理」だとわかっていたから、秋都はずっと片思いのままでいいやと思っていたのだ。
「俺たち、つき合おうか」
 って陸が言ってくれたあの瞬間まで。
 校舎の屋上、三年の文化祭の最終日。何百回思い返したかわからない。
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