TFシリーズ短編

□足枷は外せない
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降り続く雨音が鼓膜に響く。
先程まで聞こえていた戦闘音も、今は落ち着いている。終わりが近いのだろう。
私は崩れかけている建物内に逃げ込み、身を潜めていた。

「‥……敵の様子はどうだ?」

すぐ近くにいる相棒に現在の敵の様子を聞き出す。

「今は動きなし。奴等も大分消耗してるみたいだし、時間の問題でしょ」
「だといいんだがな‥……」

肩に立て掛けた愛刀をチラリと見、まだ力が使えそうかと考える。

我々選ばれし賢者は異端者とも呼ばれ、周囲からは忌々しい存在として差別を受けていた。
そしてその差別をする人間たちの中でも武力により制圧しようとする勢力があった。それが我々の敵 "黒檀の翼" 。
黒檀の翼に所属する人間は全て亜人種の能力者、ギドの支配下に置かれており、奴の僕である悪魔により黒面の破壊者 "グリード" へと姿を変えられ人でなくなっている。もとに戻すことは不可能で、暴走を止めるには仮面を破壊するか殺すしか方法がない。

「‥……‥全く、実に腹立たしい」
「?どうしたのネオ?」
「‥……何でもない」

敵に対する怒りが声に出てしまったようだ。

「敵も勢力を落としているのなら、一気に畳み掛けた方が良いかもしれん」
「でも待って、それがもし見せかけだったら返り討ちにあうのが落ちだよ」
「それでも、今やらなければチャンスを逃すことになる」

私は相棒のベルガを見上げ告げる。

「我々に残された時間は少ないんだ。指揮官としてではなく一人の兵士として頼む、もう一度力を貸してくれ、ベルガ!」

幼き頃より共に生き抜いてきた相棒は、苦い表情をしながらも−−−−−。

「‥……仕方ないなぁ、分かったよ。アンタの無理難題は今に始まったことじゃないからね」
「すまない、感謝する」
「その代わり!今度スイーツご馳走してねん♪」

ぶりっこみたいに手を合わせておねだりするベルガ。全く調子の良い奴だ。

「‥……奴等を一掃したらな」

まぁ、いつも私の無茶に付き合ってくれるお礼だ。
私は愛刀を腰のベルトに下げ、立ち上がる。

「司令、行くんですか‥……?」

敵陣へ向かおうとした時、仲間の一人、蛇の亜人種クサビが前に出た。

「あぁ‥……‥……お前はどうする」

クサビは俯いて考え込んだ。そして

「お供します、司令」
「そう言うと思ったよ」
「ボク達も行かせてくれないかい?」

クサビに便乗し、風使いのシルフィを初め他の仲間たちも立ち上がる。

「ボク達だって異端者だ、戦うときは一緒だよ」
「お前達‥……」

来るなと言っても着いてくるだろう。諦めが悪いのが私の仲間たちだ。

「仕方がない、全員でギドを討つ!これが最後の戦いだ!」

そうして我々は、敵陣へと乗り込んでいったのだ。





後にこの選択が、多くの仲間を失う結果を招くことになるなど、私は知る由もなかった。
そして同時に、異次元の友まで危険に晒してしまうとは‥……‥……後悔だけが、私の心に痼となって残った。













−−−−−−−−










また、雨音が私の鼓膜を叩いていた。

ゆっくりと目を開けば、もう見慣れてしまった出撃用カタパルトの上に座っていた。
ああ、そうか、私は昔を思い出していたのか。
此方の世界に来る前の、あの戦いのことを‥……。

「‥……思い出したところで、仲間が生き返るわけでも無かろうに‥……」

あの時の選択が、私に足枷をつけて過去と結びつけている。
仲間は生き返らないと分かっていても、過去から逃げることが出来ない為に、何度も何度も思い出される。
どうしたらこの足枷は外れるのだろうか、どうした過去を忘却出来るだろうか。
恐らく、私が生き続けている限りこの足枷は外れることはないだろう。

「‥……間違った選択をした、私への罰というわけか‥……」
〈ネオ?何してるのさ、こんなところで。風邪引くよ?〉

一人黄昏ていると、此方の世界での仲間がやって来た。お節介な奴だ。

「ああ、少し風に当たっていた。雨の日は涼しいからな」
〈逆に寒くない?〉
「水氷使いの私には丁度良い。心配は無用だ」
〈でも‥……〉
「口説い」

しつこく心配してくる青いのに、私は冷たく言い放つ。全く、緑の副司令の奴に似てきたんじゃないかコイツ。
横を通りすぎようとしたとき、ふとある疑問が浮かんだ。

「‥……なぁ」
〈ん?〉
「お前達は、過去から逃れたいと思ったことはあるか?」
〈‥……‥……そりゃあるさ〉

私は青いのに向き直り視線をあわせる。

〈僕達の記憶は、生きている限り永遠に続く。何百年、何千年、果ては何万年経っても消えることはない。楽しいことも辛いことも、全部〉
「だがお前達は、消そうと思えば簡単に消せるのであろう?」
〈確かにそうだ。ブレインサーキットのメモリーをいじれば簡単に忘れられる。けど‥……〉

次の瞬間、そいつは笑っていた。

〈楽しいことも辛いことも、全部含めて僕が出来ているんだから、消せないよ〉
「どんなに辛い過去でもか?」
〈そうだね。だって、辛い過去がないヒトなんていないでしょ?誰だって辛い過去はあるし、もしそれが無くなっちゃったら、その人はヒトでいられないと思うな〉
「‥……」
〈それに僕は、今が楽しい。コビー達や他の仲間たちといられる今が楽しいから、辛い過去があっても平気なんだ〉

そう楽しそうに語る彼を見て、私は思った。

「お前達は強いな。私よりもずっと‥……」

過去から逃れようともがく私より、今を生きようとしている彼らの方がよっぽど強かった。

「弱かったんだ、私は‥……‥……」

だから私は過去に執着する。それではダメだと頭では分かっているのだがな。
コイツのお陰で、少しだけ足が軽くなった気がした。

「‥……バックギルド」
〈なんだい?〉
「‥……‥……ありがとう」

去り際にそう呟いた。








罰という名の足枷は外せない
だがそれでも、私は今を生きようと思う



あとがき
長編書いてないのに短編先に書いちゃった笑
ネオとベルガは女の子です。
なんか雨が続いてたから思い付いた。

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