イナズマGO
□Valentine Day
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2月14日
結局、俺はクッキーを作った。兄さんに「薄力粉とかバターなら買っても変に思われないだろ?」と言われてクッキーにしてみた。
朝、登校しながら自分の作ったクッキーを眺める。…喜んでもらえるだろうか。あいつの嬉しそうな笑顔を思い浮かべると自然に顔が緩む。
「あ、あの…剣城君!!」
「!?」
いきなりだった。
瞬時にクッキーを隠す。
知らない女子に話しかけられ、さっきまで緩んでいた顔をすぐに無表情に変える。あいつ以外にこんな顔は見せられない。
「……何だ?」
「剣城君が好きなの!これ、受け取って下さい!!」
「…すまないが、受け取れない。」
「…っ、どうして?」
少し前まではせっかく作ってくれたのだから、と貰って兄さんと一緒に食べていた。
でも今は………
「付き合ってる奴がいるんだ。」
「そんなっ…だれなの?」
「…言えない。悪いが、もう行くぞ」
大切なやつがいるんだ。貰う訳にはいかない。
そう思い、彼女の横を通り過ぎようと足を動かす。
そのとき、
「待って、剣城君!!」
さっきの女子の声がしたと思ったら腰に違和感を感じた。
そう、後ろから腰に手を回し、抱きつかれていた。
「は!?ちょ、離せっ!!」
「いやっ!!受け取ってもらえるまで離さない!」
「おい、いい加減に、」
「…剣城?」
いつもの聞き慣れた、愛しい声が聞こえた。天馬の声だ。
よりによってこの場面でやって来るなんて…最悪だ。
「て…ん、ま…」
(誤解だ、俺から抱きついたんじゃない)
そう言いたいのに口が動かない。この状況を見られた羞恥と嫌われたらと思う恐怖で声がうまく出せない。
硬直していると、天馬の方から話しかけてきた。
「剣城、朝からモテモテだね!あ、今日はバレンタインデーだからか!!……もしかして、俺邪魔だった?うわー、ごめんね!!」
予想していたのとは180度違う反応をしてきやがった。怒ると思ってた。嫉妬してくれるほど、俺のことを好きだと思ってた。
(…邪魔ってなんだよ、邪魔って。)
なんでそんなに平然としていられるんだ?俺がお前の立場だったら…
想像しただけで心が痛む。だが、あいつは悲しそうな素振りも見せず、いつも通りの笑顔で俺たちに接してきた。
いつも通りの笑顔で。
……なんか、だんだん腹が立ってきた。嫉妬しない天馬にも、勘違いされるようなこの状況にも。
何も言えない、否定することすら出来ない自分にも。