Season2
□チェンジ!
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あの日から2ヶ月が過ぎ、フィリップ城での生活にもだいぶ慣れた。
付け焼刃の令嬢きどりに怪しさは満点のはずだが、一応、私がミナ本人でないことはバレていない。
とりあえず、プリンセスを選ぶパーティーの日、ヘンリー様がほかのご令嬢の手をとればそれで役目は終わりだ。
あと1ヶ月か…
気疲れと気遅れ、両方をしまくる毎日というのは長く、なかなか時間が過ぎないものだった。
「いるの? 入るよ」
不意のノックと同時に聞こえた涼やかな声に、私は五センチ跳ね上がった。
「ま、ま、待ってください!」
それなりに聞き慣れてきた声音の主は、ヘンリー様のものだ。
慌ててウィッグを頭にのせて、ミナになる。
日付けが変わろうとしている時刻。
こんな時間だから誰も来ないだろうと、すっかり素の自分だった。
危ない。
油断は禁物だ。
黒髪をしっかりとウィッグの中に押し込んで、気を引き締めてから、私はドアを開けた。
視界にとらえたとたんに、まぶしくて、目を細めてしまうほどの、金の髪。
高く澄んだ空を思わせる、ガラスの瞳。
ギリシャ神話から抜け出たように美しい彼……ヘンリー様は、私を見るなり、そのつややかな唇の端をあげた。
「主人に『待て』をさせるなんて、キミも偉くなったね、ラッシー?」
……ねえ、ミナ。
あなたは私を褒めるのかな。
私、嫌われるどころか、この人に、人間にすら扱われていないんだけど。